交通事故の治療費は誰が払う?治療費について知っておくべき5つのポイント

交通事故に遭った場合、治療費・休業損害・慰謝料・修理費などが損害として発生します。
その中でも、交通事故でけがをしてしまい、病院や整骨院へ入通院することになった場合、入通院の際に掛かった治療費・医薬品代・施術費などの費用(本記事ではこれらの費用を全てまとめて「治療費」ということにします)は加害者や保険会社に全額払ってもらえるのでしょうか。
本記事では、治療費が交通事故の損害として認められる範囲、健康保険の適用の有無、支払いを受ける方法・タイミングなどについて述べたいと思います。
- 目次
治療費として認められる場合と認められない場合
治療費として認められる場合
病院の治療費は、けがの治療にとって必要かつ相当な費用であれば全額交通事故の損害として認められます。
例えば、交通事故で頚部や腰部を痛めた場合であれば、整形外科でレントゲンやMRIを撮影する費用、痛み止めの薬代など、検査・治療に要する費用の全額が損害として認められます。
そして、損害としての必要性が認められるのは、原則として症状固定までの治療費です。症状固定とは、治療を続けてもそれ以上症状の改善が望めない状況を言います。治療を続けてもそれ以上症状の改善が望めないのですから、治療を行う必要性が無いため、原則として症状固定前の治療費のみしか認められません。
もっとも、症状固定後の治療費であっても例外的に損害として認められるケースもあります。
例えば、右足切断後に義足を作成するために通院し、その後再入通院した場合に再入通院の際の治療費を認めたケースがあります。しかし、このケースは右足を切断するという大けがをする極めて珍しいケースであったため、むち打ちや骨折などでは認められないと思っておいた方がよいでしょう。
また、整骨院、接骨院などの施術費についても、症状により有効かつ相当な場合、ことに医師の指示がある場合などは損害として認められる傾向にあります。
もっとも、整骨院や接骨院は医療機関ではありませんから、病院の治療費よりも認められにくい傾向があります。
例えば、病院へは1回しか通院せず、その後整骨院ばかり通院し続けていても、その施術費用の全額は損害として認められない可能性があります。整骨院や接骨院は、あくまで病院の治療を補助するものという位置づけで考えておいた方が良いでしょう。
また、整骨院や接骨院に通院する際には、一度主治医に相談してみる方が良いでしょう。そして、整骨院や接骨院に通院することについて保険会社の了承を得ておきましょう。
治療費として認められない場合
治療費として認められない場合の典型例として、過剰診療が挙げられます。
過剰診療とは、必要もないのに長期間入院したり、通院を続けたりするなど、事故から発生した怪我に対する治療行為として医学的必要性ないし合理性が無いものをいいます。
交通事故で負傷し、入通院している場合、本人が痛みを訴え続ければ、医師は治療を打ち切ることをしないケースがあります。しかし、本人が痛みを訴えて入通院し続ける限り、その治療費が全て損害として認められるわけではありません。カルテ、レントゲン、MRIなどの記録や負傷した被害者本人と同様の一般的な症例との比較などから客観的に見て、すでに症状固定に至ったと認められる時点以降の治療費は、過剰診療として損害として認められないことになります。
入通院期間が長くなると、それだけ慰謝料の金額が大きくなります。しかし、過剰診療となってしまうと、入通院期間に応じた慰謝料がもらえないばかりでなく、過剰診療の治療費を自己負担しなければならないことになるので注意が必要です。
被害者と加害者の負担割合
治療費の全額が必要かつ相当な範囲の費用である場合でも、被害者または加害者の保険会社に対する治療費の請求が一部しか認められない場合があります。その典型例が、被害者にも過失が認められる場合です。
例えば、単純に被害者の車に後ろから加害者の車両が追突した場合は、全ての過失は加害者に認められるため、被害者は治療費全額を加害者に請求することができます。
しかし、例えば、信号機のない交差点でA車がB車から見て左方向に交差点に進入し、B車がA車から見て右方向に交差点に進入した場合、過失割合は原則としてA車が4割、B車が6割となります。
この場合、Aが入通院した際に相手方又は相手方保険会社から支払われる治療費は、掛かった治療費の6割(Bの過失割合)しか支払われず、残りの4割は自己負担ということになります。それに加えて、Bも負傷している場合、AはBの治療費の4割(Aの過失割合)を負担しなければならないことになります。
このように、A、B双方に過失が認められる場合は、A、B双方とも被害者であり加害者でもあるということになります。
過失割合の認定は、個々の事故の事故態様によって異なっており、過失割合に関して裁判で争いになることもあります。事故の相手方保険会社から提示されたご自分の過失割合に納得がいかないときは、直ちに示談してしまうことはせず、専門家である弁護士に相談してみるのもいいでしょう。
健康保険の適用について
交通事故による治療費についての健康保険の利用
交通事故によりけがをした場合、健康保険を利用できないと誤解されている方がいらっしゃいます。
結論から言うと、交通事故で健康保険は利用できます。健康保険が利用できないとの誤解は一部の医療機関でも生じており、患者が健康保険を利用しようとすると利用を断られたというケースが稀にあります。
しかし、旧厚生省(現在の厚生労働省)は、「自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変わりがなく、保険給付の対象となるものであるので、この点について誤解のないよう住民、医療機関等に周知を図るとともに、保険者が被保険者に対して十分理解させるように指導されたい」(昭和43年10月12日 保健発第106号「健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険等に対する求償事務の取扱いについて」)との通達を出し、交通事故での健康保険の利用ができるものとの見解を示しています。
健康保険を利用する際の手続きについて
ただし、健康保険を利用するということは、本来加害者が支払うべき治療費を保険者が代わりに負担するということになりますので、保険者が、被害者の加害者に対する損害賠償請求権の一部を被害者に代わりに取得することになります。したがって、被害者は、保険者に対して負傷の原因が交通事故であること、事故の内容、加害者は誰かなどの情報を正確に伝えなければなりません。
そこで、健康保険を利用する場合は、保険者に対して「第三者の行為による傷病届」という書類を作成し、提出することになります。詳しい書き方、提出先などに関しては、医療機関や加入する健康保険の保険者に問い合わせれば教えてくれます。
支払方法や支払いのタイミングについて
交通事故の被害者が治療費の支払を受ける方法については、一般的に、以下の4通りの主体から支払いを受けることが考えられます。
①加害者本人
②加害者の加入する自賠責保険
③加害者の加入する任意保険
④自己が加入する任意保険
自賠責保険とは、自動車による人身事故の被害者を救済するため、原則としてすべての自動車につけることが法律上義務付けられている強制保険です。任意保険は、自賠責保険で補填することができない損害についての補填をしてくれる自動車保険です。
もっとも、加害者が任意保険に加入している場合は、損害の賠償は基本的には任意保険会社が一括して行います。したがって、治療費の支払方法や支払いのタイミングについては加害者が任意保険に加入しているか否かで変わってきます。
加害者が任意保険に加入している場合
加害者が任意保険に加入している場合は、原則として加害者が加入する任意保険会社が治療費を負担してもらえます。交通事故に遭い、入通院することになった場合は、加害者が加入する任意保険会社と連絡をとり、治療費を支払ってもらうようにお願いしてください。
保険会社に治療費の負担の同意が得られると、被害者が医療機関に通院した際には、医療機関が直接保険会社に対して治療費を請求することになるので、被害者の負担なしに入通院をすることができます。すでに被害者が治療費を自己負担している場合は、示談交渉前に保険会社から自己負担分の支払いを受けることができます。
もっとも、保険会社が示談前に被害者に対して治療費を支払うことは、被害者の治療費の負担を軽減するために保険会社がサービスとして行っているものであって法的な義務で行っているものではありません。したがって、交通事故の被害者であるからといって強引に支払いを求めるようなことがないように注意しましょう。
加害者が任意保険に加入していない場合
加害者が任意保険に加入していない場合は、加害者側の保険会社が治療費を払ってくれないので、基本的に治療費は一旦被害者が立て替えて入通院することになります。そして、入通院が終了し、治療費以外の全ての損害が確定してから、示談交渉の段階で治療費の支払いを求めることになります。
加害者が任意保険に加入していない場合でも、被害者が人身傷害保険などの保険に加入していれば、それらの保険を利用して治療費の支払いを受けることが可能です。
人身傷害保険は、被保険者の過失割合に関係なく損害が補填される点が特徴です。入通院が長期間にわたり、治療費の負担が多くなる場合には、人身傷害保険を利用することを検討するのもよいでしょう。
保険会社や加害者が治療費の支払いを拒む場合
保険会社が治療費の支払いを拒む場合
例えば、軽微な事故であり、任意保険会社が被害者の治療の必要性が無いと考えている場合などは、治療費の支払いを拒む場合があります。また、一旦治療費の支払いをしてもらっていたものの、一定期間が経過し、これ以上通院する必要性は無いと判断された場合には、治療費の支払いを打ち切られることがあります。
こうした場合には、医療機関での検査結果や医師の診断書を示すなどして、保険会社と交渉して支払いを求めることになります。
交渉をしても事前の支払いが受けられない場合は、一旦治療費を自己負担し、損害額が全て確定した後に行う示談交渉や訴訟で支払いを求めることになります。
加害者が治療費の支払いを拒む場合
「加害者が任意保険に加入していない場合」で述べた通り、加害者が任意保険に加入していない場合は、加害者側の保険会社が治療費を払ってくれないので、基本的に治療費は一旦被害者が立て替えて入通院することになります。そして、入通院が終了し、治療費以外の全ての損害が確定してから、示談交渉の段階で治療費の支払いを求めることになります。
示談交渉の段階で、加害者が治療費の支払いを拒む場合は、訴訟で支払いを求めることになります。
交渉や訴訟で弁護士を入れる必要性
このように、保険会社や加害者が治療費の支払いを拒む場合は、示談交渉や訴訟で支払いを求めることになります。しかし、示談交渉や訴訟は専門的な知識や経験が要求されますので、被害者個人で行うのは大変なことです。そこで、示談交渉や訴訟については専門的な知識や経験を有する弁護士に相談することをおすすめします。
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