未成年の起こした交通事故で親の賠償責任はどこまで問われるのか

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未成年の起こした交通事故で親の賠償責任はどこまで問われるのか

子の責任は、親の責任である
世間一般にはこのように言われることもあります。実際、子が何か悪さをしでかしたときは、親が被害者の自宅まで謝りに行く、ということはしばしばあります。
では、法律上、未成年の子が交通事故を起こした場合には、必ずその親に責任をとるように請求することができるのでしょうか。本記事では、未成年者が交通事故を起こしたとき、どのような場合に親が責任を負うのか、ということについてご説明申し上げます。

目次
  1. 交通事故の損害賠償請求では責任能力の有無が重要
    1. 加害者に責任能力がない場合
  2. 未成年者の交通事故で親が負う責任とは
    1. 裁判事例1
    2. 裁判事例2
  3. 運行供用者責任とは
  4. まとめ

交通事故の損害賠償請求では責任能力の有無が重要

この問題についての解説を理解するためには、「責任能力」というものを理解しておく必要があります。なぜなら、責任能力が認められなければ、損害賠償請求が認められなくなるからです。


そこで、前提としてこの責任能力について少しご説明いたします。

交通事故の被害者が加害者に対して損害賠償請求をするための条件の1つに、「責任能力」があります。


判例によれば、「責任能力」とは、自己の行為から一定の結果が生じることを認識し、その結果が違法なものとして法律上非難されるものであることを弁識する精神能力をいいます。

しかし、これだけを見ても、要するにどういう能力のことを言っているのか、よく理解できませんね。


簡単に言えば、責任能力とは、「自分のした行為が悪いことだと分かるだけではなく、法律的に何か問題になるかもしれない」と考えられる能力のことなのです。

では、何を基準にして責任能力の有無を決するのでしょうか。結論からいうと、個々の事案によって変わります。

例えば、13歳くらいでもまだ幼く、物事の良し悪しが分からない子もいれば、10歳くらいでも物事の良し悪しを見事に判別できる子もいます。


また、20歳を超えていても、精神障害のある人の中には、物事の良し悪しを判断できない人もいます。

これらのことからも分かるように、責任能力の有無は個人によって変わるのです。

ただ、一般的には12歳あたりが責任能力の有無の境目であると言われております

加害者に責任能力がない場合

次に、加害者に責任能力がない場合にはその親に損害賠償請求をなしうるのでしょうか。

結論から申しますと、加害者を監督すべき人が責任を負います。


具体的には、加害者と生活をともにしたり、加害者をサポートしている人物がこれに当たります。一般的にいえば、子から見た親が典型的です。

これを踏まえて、具体的なケースを検討してみましょう。

Aが自動車を運転していてBにぶつけてしまい、Bが損害を被ったケースを考えましょう。


Aが10歳で、管理されている車の鍵を盗み出して、興味本位で運転をしてしまったような場合には、BはAには損害賠償請求をすることができませんが、Aの親に対しては損害賠償請求をすることができます。

また、Aが25歳ではありながら重度の知的障害のある場合にも、BはAに対して損害賠償請求をすることができませんが、Aの親に対しては損害賠償請求をすることができます。

他方、Aが成人で特に精神障害もない場合には、BはAにのみ損害賠償を請求することができ、Aの親には請求することができません。

このように、責任能力の有無で、その監督者(親)に損害賠償を請求することができるかどうかが決まるのです。

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未成年者の交通事故で親が負う責任とは

以上の説明からすると、子が12歳未満であれば親が責任を負うが、子が成人していれば親は責任を負わないということになります。

では、子の年齢が12歳以上20歳未満の場合にはどうなるのでしょうか。

この場合には、これまでの説明を前提にすると、親に損害賠償を請求することはできない、ということになります。


そこで、被害者は子本人を相手方として損害賠償を請求することになるのですが、一般的に中学生や高校生が交通事故によって生じた損害額を支払うだけのお金を持っているとは思えません。


これではせっかく子本人に損害賠償を請求できたとしても、実際にお金を支払ってもらえることにはなりません。

では加害者は泣き寝入りするしかないのでしょうか。

この問題については,次の最高裁判所の判例が答えを出したのです。

すなわち、最高裁判所は、


未成年者が責任能力を有する場合であつても監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によつて生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立するものと解するのが相当である


と判断したのです。

簡単に言いますと、加害者が12歳以上20歳未満の場合でも、監督義務者(親)が子をきちんと監督しておらず、その結果被害者に損害を与えてしまった場合には、監督義務者(親)に対して損害賠償請求をすることができる、ということなのです。

監督義務者(親)が子をきちんと監督していないというのは具体的にどのような場合なのでしょうか。例を挙げて説明します。

高校生になったばかりのA君(15歳)は、高校入学の記念に同居している親Bから原動機付自転車を買い与えられました。


これに喜んだA君は、さっそく免許を取り、毎日毎晩原動機付自転車に乗って遊びまわっていました。

しかし、A君は運転に慣れておらず、交通ルールを守る意識が希薄で、日々どこかにぶつけたり、誰かに迷惑をかけてばかりです。

A君の運転に驚いた人が、Bの自宅を訪ねて、「おたくのA君、最近よく原動機付自転車に乗って走り回っているのを見かけるけど、かなり危ない運転をしているよ。交通ルールも全然守っていないし、親であるBから注意をしてあげた方がいいんじゃない?」とBに告げました。


しかし、Bは「あ、そうですか。まああの子も大人なんで」と聞く耳を持ちません。

そうしたある日、A君は、ついに自身の運転する原動機付自転車をCさんの身体に衝突させてしまい、Cさんを骨折させてしまいました。


結局、Cさんには、全部で300万円の損害が生じました。

このケースにおいてはBは、A君が危ない運転をしていて交通ルールも全然守っていないということを知っていたにもかかわらず、まったくAを注意しようとしませんでした。

普通の親なら、「他人に迷惑をかけるようなら原動機付自転車に乗ってはダメ!」と注意をするところですが、そのような措置を全くとっていませんでした。

もし、BがA君にきちんとした交通ルールを教えて、他人に迷惑をかけないようにする指導をしたり、そもそも原動機付自転車自体を取り上げるなどの措置をとったりしていれば、Cさんは骨折せずに済んだでしょう。

それゆえに、このようなケースでは、「監督義務者(B)が子(A)をきちんと監督していない」と言われるのです。

それでは、実際にあったケースを裁判所の判断とともに見てみましょう。

裁判事例1

A(16歳)は、学校の校則で運転免許の取得が禁止されており、両親であるBとCからも反対されていたにもかかわらず、その反対を押し切って、バイクの免許を取得した。


そして、Aは母方の叔父からバイクを無償で譲り受けたため、Aは興味の赴くままにバイクを運転し始めた。


その結果、Aが運転するバイクがDの運転する原動機付自転車と接触し、Dが死亡するという事故が起きた。

裁判所はBとCの責任について、次のように述べた。

BとCは、Aが校則に違反し、親の反対を押し切ってまで免許を取得し、バイクも入手し運転しようとしていたのに、これを中止させるとか、繰り返し交通事故の恐ろしさや安全運転の重要性を説いて厳重な注意を促すなどの指導教育上の措置をとった形跡は見られない。


そのため、Aは極めて規範意識の乏しい状態で、興味に引かれるままバイクを乗り回し、このことにより見通しの悪い交差点で一時停止・安全確認を怠るという基本的な注意義務を怠り、本件事故を引き超す原因となったところは否定できないところであり、仮にBとCが上記のような措置をとっていたとすれば、本件事故の発生を回避することはできたはずである。


よってBとCは責任を負う。

裁判事例2

A(18歳)はパンクした自身の所有するバイク(55cc)の代わりに、同居するAの父であるBが娘婿から預かっていた別のバイク(750cc)に乗って通勤中に交通事故を起こしてCに傷害を負わせた。


なお、Aにはこれまでに人身事故を1回起こして少年鑑別所にも収容されたことや、道路交通法違反も5回起こしたことがあった。

裁判所は、Bと、Aの母であるCの責任について、次のように述べた。

BとCは、Aが過去に多数の交通違反をしていたにもかかわらず、Aに対し、「車を運転するときにはスピードを出しすぎないようにしなさい」などの一般的な注意をするにとどまっていた。


また、Aが普段乗っていたのは55ccのバイクなのに、新たに乗ったのは750ccのバイクであり、運転特性が異なることは普通の知識があれば理解し得たはずである。


そうすると、BとCは、「Aが750ccのバイクに乗ると事故を起こすかもしれない」とわかっていたはずであるから、BとCは、Aが750ccのバイクを持ち出さないように配慮する義務があったのに、これをしなかった。


よってBとCは責任を負う。

運行供用者責任とは

以上の通り、未成年の親が責任を負うケースについて見てきましたが、実は、親の監督義務違反がある場合の他にも、親が責任を負うケースがあるのです。


それは「運行供用者責任」というものです。

運行供用者とは、法律上、「自己のために自動車を運行の用に供する者」と規定されております。これはすなわち、以下の①②

運行を支配していること(「運行の用に供する」)

運行により利益を得ていること(「自己のために」)

を条件としています。

典型的には、レンタカー業者がこれに当たります。


例えば、レンタカー業者AがBに車を貸していたが、Bが交通事故を起こした場合、その被害者は、Aに対しても損害賠償請求をすることができるということになります。

そして、この運行供用者に当たりうるケースの1つに、自動車の名義人が親のものになっているというケースがあります。

例えば、父Aと同居して家に保管されていたA名義の自動車を、Aの子であるB(20歳)が所有していた場合で、Bが事故を起こしたケースでは、Aが登録名義人になった経緯やBとの身分関係に加えて、AはBに対して自動車の運行によって社会に害悪を与えないように監視監督すべき立場にあるとして、Aは運行供与者に当たるとされました。

このように、子に責任能力がある場合であっても、その親に運行供用者責任が認められる結果、親に対して損害賠償請求をなしうるというケースもあるのです。

運行供用者責任については、別の記事で詳しく解説しておりますので、詳細をお知りになりたい方は、是非その記事もご覧ください。

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まとめ

このように、子が未成年の場合であっても、親が責任を負うケースはあります。


皆さんも、未成年者が加害者となった場合でも諦めずに、まずは弁護士に意見を聞きに行くのがいいと思います。

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