交通事故で被害者が死亡したとき、遺族が損をしないためには?
交通事故の中でも、被害者が死亡する死亡事故が起こったら結果は重大です。当然遺族の精神的苦痛も非常に大きくなります。
当然多額の損害賠償請求をすることができるのですが、具体的に死亡事故と通常の人身事故とはどのような点が異なるのでしょうか?死亡事故のケースで相手に損害賠償請求をするとき、注意すべき点についても知っておくべきです。
そこで今回は、死亡事故の場合の損害賠償について、通常の人身事故との違いや特徴、ポイントを詳細に解説します。
- 目次
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死亡事故とは
交通事故のなかでも、死亡事故が発生すると「人が死ぬ」ことですので通常の人身傷害事故とは違うことはわかることでしょう。
ここで、死亡事故というと即死した場合のみをいうと考えられることが多いです。
確かに事故現場で即死した場合は明らかに死亡事故ですが、事故後に治療を続けたけれども治療の甲斐なく死亡した場合にもやはり死亡事故となります。
死亡事故には以下の2つのパターンがあるので、まずは押さえておきましょう。
交通事故後3ヶ月後に死亡した場合でも「死亡事故」になることはあります。 即死した事故と、しばらく存命してから死亡した場合とでは、発生する賠償金の種類も変わってきます。
死亡事故では誰が損害賠償請求権を持つのか
死亡事故の問題の所在
傷害事故の場合、損害賠償請求権を有しているのは被害者自身であることは明らかです。
では、死亡事故の場合は、傷害事故と同様に死亡した被害者自身が損害賠償請求権を有していると考えるのでしょうか。
この問題意識が生じるのは下記の考え方が理由になります。法的には「人は死亡と同時に権利の主体ではなくなるため、被害者に損害賠償請求権は発生せず、被害者の遺族は損害賠償請求権を相続することができない」とも考えられるためです。
以下では、医療関係費や死亡逸失利益などの慰謝料以外の損害賠償請求権と、精神的損害である慰謝料請求権の場合に分けてみていきましょう。
慰謝料以外の損害賠償請求権について
かつては「死者は権利の主体とはなりえない」ことから「慰謝料以外の損害賠償請求権を有することができない」とされていました。
その結果、遺族が慰謝料以外の損害賠償請求権を相続することもできないと考えられていました。
しかし、傷害事故で負傷した後に被害者が死亡した場合には、傷害事故により発生した慰謝料以外の損害賠償請求権を相続人が相続します。
一方で、傷害事故よりも重大な即死の場合は慰謝料以外の損害賠償請求権が発生しないというのは明らかに不当な結果を招きます。
そこで、現在の実務は、被害者が負傷後に死亡した場合であっても、即死した場合であっても、以下の考え方をとっています。
慰謝料以外の損害賠償請求権が被害者(=死者)に発生し、それを相続人が相続する
慰謝料請求権について
慰謝料請求権については、上記の問題に加え、慰謝料以外の損害とは異なる考慮が必要です。
慰謝料以外の損害の有無は客観的に判断できる性質のものなので、慰謝料以外の損害賠償請求権は誰が行使することになっても違いはありません。
しかし慰謝料は精神的苦痛を慰謝するものです。
精神的苦痛はその苦痛を味わった被害者しか分からない性質のものですから、慰謝料請求権は被害者自身でしか行使できないのではないかという問題があります。
かつての判例は、この点に関し、下記の考え方を採用していました。
被害者が死亡する前に慰謝料請求の意思表示をしていれば、慰謝料以外の損害賠償請求権と同様に相続の対象になり、被害者の意思表示が無ければ、相続の対象にはならない
しかし、この考え方では、即死した場合や意識不明のまま死亡した場合には慰謝料請求権を行使する余地がなくなるという不当な結果が生じます。
また、被害者がどのように意思表示をすれば慰謝料請求が認められるかが不明確なので、意思表示の表現方法によって結論が変わるなど不当な結果が生じることになります。
そこで、現在の判例では、慰謝料請求権についても慰謝料以外の損害賠償請求権と同様に
被害者の意思表示がなくても相続の対象になる
という考え方をとっています。
遺族固有の慰謝料請求権について
以上は、被害者自身の損害賠償請求権は誰が有しているかという点について述べました。
さらに、死亡事故のような重大な交通事故では、被害者自身だけではなく遺族固有の慰謝料請求権が発生します(民法第711条)。
これは、遺族自身も被害者の死亡を受けて精神的な損害が生じたことによります。
ここでいう「遺族」とは、民法711条に列挙されている被害者の父母と配偶者、子に加え、これらの者と同視できる者のことをいいます。
例えば、内縁の配偶者、事実上の親子、親代わりに被害者の面倒を見てきた兄弟姉妹などが該当します。
死亡事故で示談交渉を進める方法
通常の傷害事故では、被害者自身が相手の保険会社と示談交渉をして賠償金の請求手続を進めます。
これに対し、死亡事故では被害者が死亡しているので被害者自身が示談交渉を進めることができません。
それでは誰がどのようにして示談交渉を進めることになるのでしょうか?以下で見てみましょう。
死亡事故では相続人が損害賠償請求権を持つ
交通事故で被害者が相手に対して賠償金を請求できるのは、相手に対して「損害賠償請求」ができるためです。過失で交通事故を起こし、相手を死亡させたことは不法行為となります。
そこで、被害者は加害者に対し、不法行為にもとづく「損害賠償請求権」という権利を取得します。
そして、この損害賠償請求権という権利は、先に述べたように相続の対象になるので被害者の死亡と同時に被害者の相続人に相続されます。
そこで、死亡事故が起こると、被害者の相続人が加害者に対し、被害者に代わって損害賠償請求をおこなうことができるのです。
誰が相続人になるのか確認する
ここで死亡事故の被害者の相続人になる範囲の人が誰なのか確認しておきましょう。まず、被害者に配偶者がいたら配偶者は常に相続人となります。
第1順位の相続人は子どもなので、被害者に子どもがいる場合には子どもも必ず相続人になります。配偶者と子どもがいる場合には、配偶者と子どもが相続人となります。
子どもがいない場合には第2順位の相続人である親が相続人です。親と配偶者がいる場合には、親と配偶者が相続人となります。
子どもも親もいない場合には第3順位の兄弟姉妹が相続人となります。配偶者と兄弟姉妹がいる場合には配偶者と兄弟姉妹が相続人です。
そこで、死亡事故が起こったら、まずは誰が相続人になるのかを確定して、それらの人が連携して相手の保険会社と示談交渉を進めていく必要があります。
遺族の代表者を決める
死亡事故で被害者の遺族が示談交渉をするときには、遺族の代表者を決めることが通常です。相手の保険会社とのやり取りの窓口となる人が必要だからです。
また、代表者を決めると弁護士に相談に行くときなどスムーズです。代表者を選ぶときには、被害者との関係や年齢、普段の生活の忙しさなどの観点を考慮して決定するといいでしょう。
通常は配偶者など被害者ともっとも近しかった人が代表となることが多いです。
示談交渉開始のタイミング
死亡事故ではいつ示談交渉を開始するのでしょうか? 交通事故の損害賠償は、損害の内容が確定した段階で開始することができます。
死亡事故の場合、葬儀が終わったら損害額が確定するので、葬儀が終了したら示談交渉を開始することができます。
しかし、葬儀が終わってすぐに示談交渉という気持ちにはなれないことが普通ですし、そのようなことは社会常識にも反します。
そこで、普通は四十九日の法要が済んだ頃から示談交渉を開始することが多いです。
遺族から連絡を入れなくても、その頃になると相手の保険会社から「示談はどうされますか?」と聞いてくることもあります。
そこで、四十九日の法要が終わった頃から、遺族で話合いをして誰を代表にして示談交渉を進めていくのかを決めておくといいでしょう。
受け取った示談金の分け方
死亡事故で相続人が複数いる場合、相手から受けとった示談金をどのように分配するのでしょうか?
原則的に法定相続分に従って分配します。遺族の代表として示談交渉をしたからといって、その人の取り分が増額されるというものではありません。
ただ、遺産分割をすることができるので、相続人が全員合意をすれば、法定相続分とは異なる割合で賠償金を分けることは可能です。
たとえば、配偶者と兄弟姉妹が相続人になっているときに、配偶者が全額受け取ることにしてもかまいません。
また配偶者と子どもが相続人になっているときに、全額を子ども名義の貯金にしておくことも可能です。
死亡事故で請求できる損害賠償金の種類
即死の事案
即死した場合に発生する損害は以下の通りです。
葬儀関係費用
被害者の葬儀などに関してかかった費用です。遺体運搬費用、葬儀社への支払、僧侶への支払、仏壇購入費用、墓石購入費用などが認められることが多いです。
葬儀費用
葬儀関係費用のなかで葬儀費用は原則として150万円が損害として認められます。ただし、葬儀費用が150万円を下回る場合、実際に支出した葬儀費用が損害として認められます。
例外的に150万円を上回る葬儀費用が損害として認められた裁判例もあります。
例えば、被害者の死亡場所が居住地から離れていたこと、両親と姉も事故により重傷を負い、葬儀を二回おこなう必要があったことなどから葬儀費用200万円が認められたケースがあります。
墓石・仏壇・位牌購入費、墓地購入・墓石建立費など
墓石・仏壇・位牌購入費、墓地購入・墓石建立費などは、以下のような事情を考慮して、社会の習俗上その霊をとむらうのに必要かつ相当と認められ金額が損害として認められます。
香典返し
葬儀では参列者などから香典を受け取ることがあります。香典を受け取ったら香典返しをおこないますが、香典返しのために支出した費用は損害として認められません。
一方、受け取った香典金額を損害賠償金額から差し引くこと(損益相殺)もありません。
遺族の渡航費・宿泊費や遺体搬送費
死亡した被害者遺族が遠方にいることもあります。この場合、遺族が被害者の元へ駆けつける際の渡航費や宿泊費も損害として認められます。
また、被害者の遺体の運搬に必要な費用も損害として認められます。ただし、遺族以外の参列者への交通費や四十九日法要後の法要費用などは損害として認められません。
修理費などの物的損害
交通死亡事故では被害者が乗っていた車などが損壊している場合があります。したがって、被害者が運転していた車両の修理費や代車料などの物的損害も損害として認められます。
死亡慰謝料
死亡慰謝料とは、被害者が死亡したことによって被害者が受けた精神的損害に対する慰謝料です。
死亡すると同時に被害者が強い精神的損害を受け、それがそのまま相続人に相続されると考えられています。
死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、被害者が死亡したことにより、これまでのように働けなくなり得られなくなった将来の収入のことです。
死亡逸失利益が認められるのは事故前に働いて収入があった人です。
ただ、主婦や学生、子ども、年金生活者などにも死亡逸失利益が認められます。
事故後しばらくしてから死亡した事案
事故後しばらくしてから被害者が死亡したときには、「即死の事案」の項で説明した損害に加えて、以下のような損害が認められます。
治療費、付添看護費用、入院雑費などの積極損害
死亡事故のなかでも被害者が即死でなかった場合、死亡するまでの間、病院で入院治療を受ける(場合によっては通院治療)ことが普通です。
そこで病院に対する治療費が発生します。
また、死亡するまでの間にかかった付添看護費用や入院雑費などの損害も発生します。計算方法は、通常の人身傷害事故のケースと同じです。
このとき付添人の宿泊費や交通費も損害として別途認められます。
休業損害
被害者が生前仕事をしていて事故後の治療中に働けない期間があった場合、休業損害が発生します。休業損害についても通常の人身傷害事故のケースと同じです。
入通院慰謝料
被害者が入通院治療を受けたら、その間入通院慰謝料が発生します。たとえば、被害者が1ヶ月入院してから死亡したら、1ヶ月分の入院慰謝料を相手に請求することができます。
計算方法は、通常の人身傷害事故のケースと同じです。
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死亡事故特有の損害とその費用や慰謝料の相場
では、以下で死亡事故特有の損害の相場や計算方法を確認していきましょう。
葬儀関係費の相場
死亡事故では葬儀関係費を請求することができます。金額は、およそ150万円を限度として、かかった実費の額が支払われます。
事案によってはそれより高く、200万円近い金額が認められる例もあります。ただし、高額な墓地や墓石を購入したからといって全額を認めてもらうことなどはできません。
死亡慰謝料の相場
交通事故の慰謝料には3つの金額基準があります。ここでは交通事故裁判で認められる弁護士(裁判所)基準について説明します。
死亡慰謝料には死亡した被害者本人の慰謝料と遺族固有の慰謝料の二つがあると説明しました。
弁護士(裁判所)基準では、この二つの慰謝料を別々に計算せず、死亡した被害者が家族のなかでどのような立場だったかにより金額が大きく異なってきます。
被害者に子どもなど扶養していた人がいる場合、慰謝料が高額になります。具体的には以下のとおりです。
幅がありますが、事案によって増減をして適切な金額を認定します。なお、上記の金額は、3つの慰謝料基準のうちもっとも高額な基準で計算した場合の金額になります。
慰謝料基準には、ほかに自賠責保険基準や任意保険基準があります。自賠責基準や任意保険基準で算出した死亡慰謝料の金額は上記金額より大きく下がります。
弁護士(裁判所)基準は弁護士に慰謝料を計算するときに使用する基準です。したがって、弁護士(裁判所)基準の死亡慰謝料を受け取るためには弁護士に依頼することが必要になります。
示談交渉は被害者自身(死亡事故の場合は遺族)でもおこなうことができます。
しかし、被害者(死亡事故の場合は遺族)が自分で相手の保険会社と示談交渉をすると上記の金額を支払ってもらうことは難しくなります。
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死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、被害者が死亡したことによって得られなくなってしまった将来の収入です。したがって、請求できるのは基本的に事故前に仕事をしていた人です。
たとえば、サラリーマンや個人事業者などは問題なく逸失利益を認めてもらうことができます。そのほか、以下のような人が死亡逸失利益を請求することができます。
主婦
専業主婦や兼業主婦、主夫などは外で働いて収入を得ているわけではありません。
しかし、家事には経済的な価値があると認められるので、これらの家事労働者が死亡した場合には死亡逸失利益を認めてもらうことができます。
その場合、基礎収入(逸失利益計算の際に基本とする収入)は、全年齢の女性の平均賃金を使って計算します。
だいたい年収370万円程度です。 兼業主婦の場合には、実収入が女性の平均賃金を上回る場合にのみ実収入を基準とし、それ以外の場合には平均賃金を使って計算します。
主夫(男性)の場合にも、主婦と不公平にならないように、女性の平均賃金を使って基礎収入を計算します。男性の平均賃金は女性の平均賃金よりも高額になるためです。
学生・子ども
学生や子どもは働いていないので収入がないことが普通です。
ただ、これらの人が死亡した場合にも死亡逸失利益が認められます。学生や子どもは、将来働いて収入を得る可能性が高いからです。
学生や子どもの逸失利益を計算するときにも、実際に収入がないため、どのようにして基礎収入を計算するかが問題となります。この場合、男女別の平均賃金を使うことが多いです。
学生の場合、就職の内定が決まっていたら内定先の給料が基準になることがありますし、大学生なら学歴別の平均賃金を使ってもらえることもあります。
小さな子どもの場合、男性の平均賃金と女性の平均賃金に差があり、男の子の方が女の子よりも死亡逸失利益が高額になるという不合理が発生します。
女性の平均賃金は370万円くらいですが、男性の平均賃金は550万円くらいになるためです。
そこで、女の子の場合に男女の平均賃金を使って計算することにして不均衡を是正することが多いです。男女の平均賃金は年収490万円くらいになります。
死亡事故では過失割合が問題になりやすい
死亡事故で遺族が示談交渉を進めるとき、過失割合に注意しなければなりません。過失割合とは、交通事故の結果に対する被害者と加害者の責任の割合のことです。
被害者の過失割合が高くなると、被害者が相手に請求できる賠償金の金額が減ってしまいます。相手は被害者になるべく高い過失割合を割り当てようとしてきます。
したがった相手と示談交渉を進めるときは不当に高い過失割合を押しつけられないように注意しなければなりません。
たとえば通常の人身事故の場合、相手の保険会社が「~だから、あなたにも過失がありますね」などといってきたら、被害者自身が「いいえ、そんなことはありません。あのときは~でした」などと反論できます。
しかし、死亡事故の場合には被害者自身は死亡しているので誰も事故現場を見ていた人がいません。そこで相手の言うなりに過失割合を決められてしまいやすいのです。
また、事故後の実況見分に被害者が立ち会えないことも問題です。
事故が起こると警察が実況見分をおこないますが、このとき普通は被害者と加害者双方の立ち会いのもと双方から話を聞いて図面などを作成します。
しかし、死亡事故の場合には被害者が死亡しているので、被害者自身が説明をすることができず加害者の言うなりの書面が作られてしまうおそれがあるのです。
以上のことから、死亡事故の場合、被害者に不当に高い過失割合を割り当てられて賠償金を大きく減額されてしまうおそれが大きくなるので注意しましょう。
死亡事故で不利益を受けずに示談交渉を進める方法
死亡事故では、通常の人身事故とは異なり、注意すべきことや被害者側が不利になる要素が多くあります。
遺族が自分たちで示談交渉を進めようとしても、なかなかスムーズに進まないことが多いでしょう。
このようなときにはプロである弁護士に依頼すると安心です。弁護士なら、遺族の気持ちに配慮しながら被害者の権利を最大限実現してくれることでしょう。
まとめ
死亡事故の特徴や注意点を解説しました。死亡事故では被害者が死亡しているため遺族が示談交渉をしなければならず、過失割合の認定でも不利になりやすいなどの問題があります。
適切に賠償金請求を進めていくには弁護士に対応を依頼することが大切です。死亡事故の遺族になって困っていたら、まずは一度、弁護士の無料相談を受けてみるといいでしょう。
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