交通事故でひき逃げに。被害者がとるべき対処法と受けられる補償とは。

慰謝料・損害賠償
交通事故でひき逃げに。被害者がとるべき対処法と受けられる補償とは。

交通事故に遭うと、心身ともに大きくダメージを受けます。これが、ひき逃げであれば、そのショックはさらに大きいものでしょう。


この記事では、ひき逃げに遭ってしまったときにどのように対応すればいいのか、どのような補償を受けることができるのかなどを解説します。


また、ひき逃げの加害者はどのような罪に問われるのか、思わず逃げてしまった人はどのように対応すればいいのかについても述べたいと思います。

目次
  1. ひき逃げの定義と検挙率
    1. ひき逃げとは?
    2. ひき逃げの検挙率
  2. ひき逃げにあった場合にするべきこと
    1. 警察に連絡
    2. 自分の保険会社に連絡
    3. 病院で治療を受ける
  3. 民事上の損害賠償を受け取る方法
    1. 加害者が判明した場合
    2. 加害者が判明しなかった場合
  4. ひき逃げをしてしまったら?
    1. ひき逃げの罰則
    2. ひき逃げをしてしまった場合にするべきこととは?
  5. まとめ

ひき逃げの定義と検挙率

1-1.ひき逃げとは?

ひき逃げ」というのは、法律用語ではありません。一般に、人身損害を伴う交通事故を起こしながら、警察への報告義務の履行を怠り、事故現場から立ち去った場合のことを言います。


これに対して、物的損害のみの交通事故で、警察への報告義務の履行を怠って、事故現場から立ち去った場合を「当て逃げ」と呼んで区別しています。

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1-2.ひき逃げの検挙率

警察庁交通局の統計をもとに作成される犯罪白書の平成29年版によると、平成28年のひき逃げ事件の検挙率は、死亡事故検挙率が100.7%(前年以前の事件の検挙も含まれるため)、重傷事故検挙率が74.9%でした。

なお、ここでの重傷事故とは、治療に1か月以上を要するものです。これに軽傷事故を含めた全検挙率は、56.8%になっています。

平成17年以降、ひき逃げの件数は減少傾向にある一方、防犯カメラやドライブレコーダーの普及から検挙率は上昇傾向です。

※参考:「平成29年版 犯罪白書 第4編/第1章/第2節/3 ひき逃げ事件

ひき逃げにあった場合にするべきこと

2-1.警察に連絡

ひき逃げは犯罪ですから、まずは警察に連絡します

また、自分が歩行者であった場合は別ですが、自動車、バイク、自転車など車両を運転していた場合は、被害車両の運転者も道路交通法第72条第1項後段の「当該交通事故に係る車両等の運転者」に当たるので、報告義務があります(通常は、加害者側が報告するべきとされています)。

そして、記憶が鮮明なうちに、加害自動車の特徴やナンバー(一部でも)、事故の状況などを警察官に伝える必要があります。

また、実況見分にも立ち合いましょう。実況見分調書は、民事上の損害賠償請求をするときに、非常に重要な証拠となります。 そして、その後も警察の捜査に協力していきましょう。

2-2.自分の保険会社に連絡

交通事故の場合、相手が全面的に悪いと思っていても、自分の保険会社にも念のために連絡しておきます

例えば、人身傷害補償保険弁護士費用特約など、加害者側でなくても、その交通事故で利用できる保険や特約に加入している場合があるからです。

ひき逃げの場合には、なおさら利用できる保険や特約の有無を確認してもらう必要があります。

2-3.病院で治療を受ける

ひき逃げに遭った場合、治療費などを誰が払ってくれるのかという不安を感じるかもしれませんが、健康はお金に変えられません。

ケガをした場合はもちろん、むち打ち症状(めまい、吐き気など)でも、病院に行きましょう

治療費は、警察が加害者を検挙してくれれば、加害者に損害賠償請求できますし、仮に加害者が判明しなかった場合でも、後述するとおり、公的制度も含めて補償の制度はありますので、治療費が全額自腹になるということはありません。

また、後日、損害賠償請求や保険金支払請求を行うとき、ケガやむち打ち症状と交通事故との因果関係が争いになることは多く、いつからどのような症状が出たのかということは重要な事実になります。

そのときに病院のカルテは重要な証拠になるものです。

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民事上の損害賠償を受け取る方法

3-1.加害者が判明した場合

警察の捜査によって、加害者が判明した場合、通常の交通事故と同じように、加害者に対して民事上の損害賠償請求をします。

加害者が任意保険に加入していれば、任意保険会社が対応してくれるでしょう。

ひき逃げの場合に、通常の交通事故と何が違うかというと、慰謝料の金額が変わります。

交通事故による損害賠償額には、治療費、入院雑費、交通費、文書料、休業損害、入通院慰謝料、(後遺障害が残存した場合には)後遺障害慰謝料、後遺障害による逸失利益、(死亡した場合には)死亡慰謝料や死亡による逸失利益などいろいろな項目が含まれます。

この中で、「ひき逃げ」という事実は、慰謝料の金額で考慮されます。もっとも、どの程度増額されるかは個別具体的な事情によって異なります。

加害者が逃げた原因が無免許、飲酒、薬物使用などであった場合には、これらもさらに慰謝料増額の理由となります。

3-2.加害者が判明しなかった場合

加害者が判明しなかった場合でも、自分が加入している自動車保険や公的な制度などから、一定の補償を受けることができます。

自分が加入している自動車保険の利用

最近は、自動車保険の種類も多様化していますので、下記のような保険や特約に加入していないか保険会社に確認してみましょう。

人身傷害補償保険

人身傷害補償保険は、加害者の倍賞責任の有無にかかわらず、保険契約の人身傷害条項及び一般条項に従って保険金が払われる保険です。

どのような保険事故に対応しているかは、自分が加入している保険の約款を確認する必要がありますが、一般的には、例えば、通常の交通事故で、過失割合が、相手8:自分2となった場合、相手からもらえる損害賠償金は、すべての損害額の8割です。

この場合、自分の過失分2割を人身傷害補償保険から払ってもらうことができることになっています。 そして、加害者の不明の交通事故に遭った場合にも利用できます。

ただし、人身傷害補償保険を利用するには、健康保険や労災など公的制度の利用によって、費用軽減につとめる義務があります。

また、保険金額の支払額は、保険契約や約款によって定められていて、相手の任意保険会社から損害賠償を受ける場合よりも低額になることが多いです。

無保険車傷害補償特約

無保険車傷害補償特約とは、死亡または後遺障害が生じた場合に、加害者に代わって保険金を支払ってくれるという損害填補型の保険です。

無保険車」とは、

相手が任意保険に入っていない場合

相手の任意保険の免責規定などによって保険金が払われない場合

相手の対人賠償保険の保険金額が無保険所傷害保険の保険金額よりも低い場合

加害自動車が不明の場合

が含まれます。

無保険車傷害補償特約では、加害者が払うべき損害賠償額と同様の計算方法で、支払われる保険金額が決まります。

政府補償事業制度

政府保証事業とは、加害者が分からないひき逃げ事故や、保険契約の被保険者以外の者による事故に遭った被害者が填補金を請求できる制度のことを言います。

自動車責任賠償責任法に規定されていますが、自賠責保険が支払うものではありません。


自賠法施行令20条により、支払われる金額は、傷害、後遺障害、死亡のいずれの場合も自賠責保険の限度額の範囲内と同一とされています。

ただし、健康保険や労災保険など他の社会補償制度によって給付を受けられる場合には、そちらを優先して利用する必要があります。


政府保証事業制度は、あくまでも最後の救済手段だからです。

なお、自分の加入する人身傷害補償保険や無保険車傷害保険と政府保証事業制度のどちらから補償を得るかについて、国土交通省の自賠責保険ポータルサイトには、「どちらを優先するかは請求者の自由意思です」と記載されています。


当然のことながら、二重取りはできません。

参考:「自動車総合安全情報

ひき逃げをしてしまったら?

ひき逃げをしてしまったら、どのような刑罰を受けるのでしょうか?そして、どのように対応すればいいのでしょうか?

4-1.ひき逃げの罰則

ひき逃げは、過失運転致傷罪に加え、道路交通法違反にもなりますので、罰則は重くなります。

過失運転致死傷罪

ひき逃げをしたかどうかに関係なく、人身傷害を伴う交通事故を起こした場合は、基本的には「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷行為処罰法)」上の過失運転致死傷罪に該当します(場合によっては、危険運転致死傷罪になることもあります)。


過失運転致死傷罪の法定刑は、7年以下の懲役もしくは禁固又は100万円以下の罰金です。

道路交通法違反(緊急措置義務と報告義務)

緊急措置義務(道路交通法第72条第1項前段)


交通事故があったときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。


罰則(道路交通法第117条)


5年以下の懲役又は50万円以下の罰金(第1項) (ただし、運転手の運転に起因する交通事故の場合)10年以下の懲役又は100万円以下の罰金(第2項)


ほとんどの交通事故は、第2項に該当します。歩行者の飛び出しや、相手の赤信号無視など、被害者の方に重大な過失があるような場合に例外的に第1項が適用されることになっています。

警察への報告義務(道路交通法第72条第1項後段)


この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む)の警察官に交通事故が発生した日時及び場所、交通事故における死傷者の数や負傷者の負傷の程度並びに損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。

 

罰則(道路交通法第119条第1項第10号)


3月以下の懲役又は5万円以下の罰金

 

現場に留まる義務(道路交通法第72条第2項)


前項後段の規定により報告を受けた最寄りの警察署の警察官は、負傷者を救護し、又は道路における危険を防止するため必要があると認めるときは、当該報告をした運転者に対し、警察官が現場に到着するまで現場を去ってはならない旨を命ずることができる。

 

罰則(道路交通法第120条11号の2)


5万円以下の罰金

 

ひき逃げをしてしまった場合にするべきこととは?

交通事故を起こして、気が動転して思わず逃げてしまったという人がやるべきことはただ1つ、自首することです。


法的な意味での「自首」とは、「犯罪が捜査機関に発覚する前に、犯人が自分の犯罪事実を捜査機関に申告して、その身柄の処分を委ねること」です。

刑法42条


罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる

 

最高裁判所平成24年5月14日判決により、「捜査機関に発覚する前」には、「犯罪事実が全く、警察などに発覚していない場合」だけではなく、「犯罪事実は発覚しているけれど、犯人が誰であるかが発覚していない場合」も含むと判断されました。


そこで、警察が、あなたが犯人であると割り出す前に出頭すれば自首が成立するということですので、早めに決断する必要があります。

一方、警察がすでに、あなたが犯人であると特定していた場合には、法的な意味での「自首」は、成立しませんが、それでも、警察に「自分から申し出た」ことは、情状に大きく影響します。

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まとめ

ひき逃げは重い犯罪です。

ひき逃げに遭ってしまった場合には、警察の捜査に協力しつつ、どのように損害を填補できるかを考えていく必要があります。

警察への対応、自分の加入する保険会社との交渉や政府保証事業制度の利用などを1人で考えて対応していくことは難しいことですので、早めに弁護士に相談してみましょう。


一方、思わず逃げてしまったという人は、早く自首しましょう。弁護士に付き添ってもらって自首するという方法もあります。

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