入社前の交通事故で内定取り消し!休業損害はもらえる?受けられる補償とは。

厳しい就職活動を乗り越えて内定を取ったのに、就職間近という時期に交通事故に遭い、さらに内定を取り消されてしまったら、とても悔しくやり切れない思いがするでしょう。このような事態ではどのような補償を請求することができるのでしょうか?
- 目次
交通事故の休業補償と逸失利益
休業損害とは
休業損害とは、交通事故に遭わなければ、働いて得ることができるはずであった収入・利益を交通事故に遭って失ったことによって生じた損害のことです。
休業損害は、交通事故に遭った後、完治もしくは症状固定までの期間に発生するものです。症状固定の後、後遺障害が残った場合には、さらに将来の逸失利益が問題となります。
休業損害の計算方法
休業損害は、「基礎収入×休業期間」で計算されます。
基礎収入とは?
少なくとも事故前3か月の平均収入を基礎収入とします。
収入の変動が激しかったり、不確定要素の多い職種は、より長期間の収入の平均を基礎収入とします。前年の収入を基準とすることも多いです。
休業期間
休業が必要だった期間のことで、実際に休業していても、症状の内容・程度・治療経過などから就労可能だったと認められる期間については「休業期間」として認められないことがあります。
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逸失利益とは
後遺障害による逸失利益とは、後遺障害がなければ将来にわたって得られたであろう収入や利益のことです。
後遺障害といっても、重いものから軽いものまでいろいろとありますので、その症状によって、第1級から第14級に分類されています。
後遺障害等級の認定は、自賠責保険会社に申請し、自賠責保険会社は損害保険料率算出機構の調査事務所に依頼して等級の認定を得ます。
後遺障害による逸失利益の計算式
認定された後遺障害等級ごとに逸失利益を下記の計算式によって算出します。
基礎収入×労働能力喪失率×(就労可能期間に応じた)ライプニッツ係数
後遺障害における基礎収入
基礎収入は、原則として休業損害の場合と同様に前年の収入が基準になりますので、会社員は前年の年収額、自営業者は確定申告の金額です。
しかし、休業損害が治療期間中のみのものであるのに対して、逸失利益は将来にわたっての収入を補償するものです。
そのため、まだ収入が安定していない場合には修正が必要です。特に30歳未満の人は、学歴計・全年齢平均賃金よりも収入が少ないことがあります。
しかし、伸びしろのある年代ですから、その人が順調に働けていれば、将来的に学歴計・全年齢平均賃金程度の収入を得る蓋然性(がいぜんせい)が高いと言える場合には、実収入額ではなく賃金センサスの学歴計・全年齢平均賃金を基礎収入として逸失利益を計算することもあります。
また、そこまでの蓋然性が認められない場合でも、「学歴別・全年齢平均賃金」もしくは「学歴計・年齢対応平均賃金」を基礎収入として利用することもあります。
賃金センサスとは、厚生労働省が発表している「賃金構造基本統計調査」のことです。職業別や年齢別、男女別、学歴別などの平均賃金を調べることができます。
労働能力喪失率とは?
労働能力喪失率とは、後遺障害が残ったことによって、どの程度の労働能力が失われたかを割合化したものです。後遺障害等級ごとの労働能力喪失率は下記のとおりです。
例えば、年収500万円だった人が第1級の後遺障害であると認定された場合には、労働能力喪失率は100%、つまり、年500万円稼ぐ力が失われたということです。
一方、その人の後遺障害等級が第14級だった場合には、500万円の5%分である25万円を稼ぐ力が失われたと考えるということになります。
なお、上記は目安であって、その他にも障害の部位・程度、被害者の性別・年齢・職業、事故前後の就労状況、実際の減収の程度なども総合判断して決められることになっています。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
第1級 | 100% |
第2級 | 100% |
第3級 | 100% |
第4級 | 92% |
第5級 | 79% |
第6級 | 67% |
第7級 | 56% |
第8級 | 45% |
第9級 | 35% |
第10級 | 27% |
第11級 | 20% |
第12級 | 14% |
第13級 | 9% |
第14級 | 5% |
就労可能期間とは?
就労可能期間とは働くことができる期間です。就労可能期間の始期は症状固定の日です。そして就労可能期間の終期は67歳です。
ただし、年長者は、死亡から67歳までの期間と平均余命の2分の1の期間のいずれか長い方を就労可能期間とします。
なお、むち打ち症状の場合には第12級で5年~10年、第14級で2年~5年程度の期間のみ逸失利益が認められることになっています。
ライプニッツ係数とは?
ライプニッツ係数とは、将来の収入を前払いで受け取ることによって複利で発生する「中間利息」をあらかじめ控除して計算するために用いられる係数のことです。
現在の民法の法定利率が5%であることから、交通事故の損害額の計算では「5%のライプニッツ係数」が使われています。
改正民法が施行された後に起こった交通事故については当面3%となり、その後、3年ごとに見直しになる予定です。
ライプニッツ係数は、分かりにくい概念なのですが、下記のように考えると比較的分かりやすいと思います。
年収600万円だった人が100%労働能力を喪失した事例で考えます。
将来にわたって得ることができるはずだった収入というのは、被害者が働いて受け取り、また働いて受け取るというように何年間にもわたって段階的に得る予定だったのものです。
しかし、これを損害賠償として受け取るときは、何年分、何十年分を一括前倒しで受け取ることになります。
仮に預貯金の金利が5%だった場合、今年受け取った600万円を預金すると来年には630万円になります。利息には複利の力がありますので、再来年には、661万5000円になります。
交通事故がなかった人は、来年一年間かけて、一生懸命働いて、ようやく600万円受け取ることができます。
しかし、損害賠償として今年前倒しで600万円をもらった人は来年には630万円を手にしているということです。これは不合理なことであり調整が必要であると考えられます。
この複利で増えていく利息が「中間利息」であり、この中間利息をあらかじめ控除して計算するために用いられる係数が「ライプニッツ係数」であるということです。
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無職者の休業損害・逸失利益
無職者の休業損害
休業損害を請求できるのは原則として仕事をしている人です。
休業損害は、働けなかったことによって失った収入の穴埋めをしてもらうものですから、もともと働いていなかった人には失う収入というものがありません。
しかし、無職者も治療が長期にわたる場合で、治療期間中に就職する蓋然性が高かったと認められれば、休業損害を請求することができることになっています。
例えば、
失業後、精力的に求職活動をしているときに交通事故にあって、6か月の治療を要したために働けなかった。しかし、従前のペースで求職活動を続けていれば、3か月目くらいには働き始めた可能性が非常に高い
というような事情が認定された場合、3か月目~6か月目の期間について、休業損害が認められることがあるということです。
この場合には、失業前に得ていた収入や賃金センサスなどを利用して基礎収入が定められることになるでしょう。
無職者の逸失利益
交通事故に遭ったときに無職だったとしても、その人がその後も一生無職だったかどうかは分かりません。無職である事情は人それぞれです。
そこで、個別の具体的な事情にもよりますが、無職者の逸失利益については、その人の年齢、職歴、勤労能力、勤労意欲などを考慮して、今後働いて収入を得たであろう蓋然性が高いと判断できる場合には、その人の年齢や失業の事情、前職の収入などを参考に基礎収入を決めて逸失利益が計算されます。
また、賃金センサスを基礎収入とすることもあります。
就業年齢前の無職者(幼児、学生)の場合
就職前の幼児や学生は、就業可能年齢になれば就職し平均賃金程度を稼いでいた蓋然性が高いと考えられます。
そこで、未就労者の場合は、原則として18歳から67歳までを就労可能期間として逸失利益が認められます。
症状固定のときにすでに大学生や大学院生、専門学校生だった場合には、その卒業予定時を就労可能期間の始期として逸失利益が認められます。
この場合の基礎収入は、男性計もしくは女性計の賃金センサスの学齢計・全年齢平均賃金を利用します。
被害者が大学に進学する可能性が高かったと認められる事情がある場合には、男性計もしくは女性計の大学卒・全年齢平均賃金が基礎収入となります。
また、年少女子については、男女を合わせた全労働者の学歴計・全年齢平均賃金が基礎収入となります。
内定取消の場合は?
内定の法的性質
内定とは、「採用時に明示された採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約(就労始期付解約権留保付労働契約)」のことを言います。
最高裁判所判例によると、内定を出した会社は、
という要件をクリアする事情がある場合にのみ内定を取り消すことができるということになっています。
つまり、会社と内定を受けた人との間には、すでに労働契約が成立していて、会社がこれを解約する(取り消す)には一定の条件をクリアする必要がある関係になっているということです。
そのため、内定を得ていた人は単なる無職者ではありません。
内定を得ていた人の休業損害
内定を得ていた人は、交通事故に遭わなければそのまま就職し就労していた可能性が非常に高いと言えますから、休業損害を請求することができます。
この場合には、入社予定だった日から完治の日もしくは症状固定日までの休業損害を請求することができます。基礎収入は、予定されていた給与額ということになるでしょう。
内定を得ていた人の後遺障害による逸失利益
内定を得ていた人は今後働いて収入を得たであろう蓋然性が高いのは当然のことです。そのため後遺障害による逸失利益を請求することができます。
ただし、この場合に問題になるのは基礎収入です。
内定をもらったときに分かっているのは初任給ですが、どのような職種でもその後昇給していくのが通例ですから、初任給で将来の損害を計算するのは妥当ではありません。
このような場合には、その職種の平均賃金や学歴ごとの賃金センサスの平均賃金などが基礎収入となります。
例えば、警察官に内定していた人の事例では下記の判例があります(東京地方裁判所平成23年8月2日)。
警察官は1年後の離職率が1割であることや定年退職の割合が5割であること(つまり、それ以外の人は定年まで勤めることなく退職する)という事情から、被害者は、交通事故がなければ、警察官として就労していたとは認められるが、定年まで勤めていたかどうかは分からないなどの理由から、警察官の平均賃金ではなく、男性・大学卒・全年齢の平均賃金が基礎収入とされた。
また、これは死亡事例ですが、下記のように美容師として就職が内定していた人の事例があります(大阪地方裁判所平成28年7月15日)。
被害者が専門学校で学んでいたのは、美容師としての技術だけはないこと、20歳という年齢からすると、今後の活躍の可能性も限定すべきではないという理由から美容師の平均賃金ではなく、専門学校・短大卒・女性・全年齢の平均賃金が基礎収入とされた。
内定をもらった会社で働けなくなったことへの補償は?
せっかく内定を得ていた会社に就職することができなくなってしまったということは、大きな損失であると感じると思います。
特に、新卒でこれから夢を持って就職しようとしていた人や、あこがれの会社から内定をもらっていた人であればなおさら悔しい思いをするでしょう。
そこで、「その会社で働けなくなった」ということについてもなんらの補償をしてほしいと考えるかもしれません。しかし、そこまでの損害が補償されることは通常はありません。
すでに勤めていた人でも、交通事故に遭って後遺障害が残ったことにより、会社を辞めなければならないこともあります。
そのような場合でも、休業損害と逸失利益以上の補償は認められないのが実情なのです。
まとめ
内定を得ていた人は単なる無職者ではありませんから、休業損害や後遺障害の逸失利益を請求することはできます。
もっとも、実際に働いていた人よりも基礎収入をいくらみるかなど争いになる点も多いのが実情です。保険会社のいうことを鵜呑みにすることなく、交通事故に強い弁護士に相談してみましょう。
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