ペットが交通事故に!損害賠償請求で治療費や慰謝料は認められるのか。

ペットが自動車にはねられて死んだら、自動車の運転者が加入している自動車保険から保険金が支払われるのでしょうか。
結論を先に紹介すると「物損」としての保険金は支払われますが、人が交通事故の被害者になった場合の補償に比べるとはるかに低いものです。
飼い主には残念なことなのですが、ペットは法律上は「物」として扱われてしまうのです。
ただ最近は裁判官も「ペットは家族」という考え方をするようになり、ペットを交通事故で失った飼い主の慰謝料の請求権を広く認めるようになっています。
- 目次
残念ながら法律上ペットは「物」扱い
先ほどから「死ぬ」という言葉を使っていますが、「死亡」は人に対して使う言葉なので、「ペットが死亡した」という表現は誤用とみなされています。
ペットは物という考え方は、愛犬や愛猫のことを「家族」と考えている方には納得できるものではありません。
しかし交通事故の保険金に関する判断は法律に従うことになるので、その前提で解説していきます。
過失によるペットへの加害を刑事事件として扱うことは難しい
ペットの法律的な位置付けを確認しておきます。
ペットは「物」ですので、ペットが誰かに連れ去られても容疑者は誘拐罪(刑法224条)ではなく窃盗罪(刑法235条)で裁かれます。
また、自動車の運転者が第三者のペットを過失でひき殺してしまっても、危険運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法2条)や過失運転致死傷罪(同5条)といった刑事事件としては扱われません。
では過失による交通事故でペットが死んだ場合、器物損壊罪(刑法261条)が適用されるかというと、そうでもないのです。刑法は原則として故意によるものを処罰します。
この場合、交通事故は故意ではないので器物損壊罪は成立しません。
では動物虐待罪(動物愛護管理法44条)に問えるかというと、これもこの罪の構成要件が「愛護動物をみだりに殺し、または傷つけること」となっているので、交通事故はこれに該当しません。
ただ過失ではなく、自動車を使って故意に他人のペットを殺せば、器物損壊罪や動物虐待罪で罰せられる可能性はあります。
ペットの事故は賠償請求(民事)でも微妙な立場になる
刑事事件にならなければ民事案件になるのかというと、それも簡単ではありません。
例えば人が加害者から損害を受けたとき、民法709条に基づいて損害賠償請求の訴訟を起こすことができます。
しかし、ペットが交通事故でケガを負っても、ペットは損害賠償請求ができません。
したがって、交通事故でペットが死んだりケガを負った場合、飼い主が「物の所有権を侵害された」として損害賠償請求をすることになります。
被害に遭ったペットは、刑事でも民事でも微妙な立場に置かれてしまうのです。
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ペットの事故では自動車保険の対物賠償保険から補償を受ける
ペットは「物」として扱われると説明しました。
そのため、ペットが交通事故で死んだりケガを負い、飼い主が損害賠償を請求した場合、飼い主は自動車の運転者の自動車保険の対物賠償保険から補償を受けることになります。
ただ原則として、ペットの治療費が高額になっても、死んだ場合であっても、補償の上限額(保険金の上限額)は時価となります。時価は、ペットの購入代金を目安にして算定されます。
例えば判例では、血統書付きの生後間もないパピヨン犬が交通事故で死んだとき、購入代金の15万円の補償額が認定されたことがあります。
しかしこれはあくまで「原則」であり、最近はむしろ裁判で「例外」が認められるケースが増えてきました。 法律の世界にもようやく「ペットは家族」という認識が広まってきたのです。
「ペットロス」として慰謝料を請求できるようになってきた
例えば自動車2台の交通事故で、被害者が高価な壺を車内に積んでいて、それが壊れてしまったとします。
このとき被害者は、加害者に対して損害賠償を求めることはできますが、慰謝料は請求できません。それは壺が「物」だからです。
ペットは「物」なので、かつてはペットが交通事故で死んでも飼い主は慰謝料を請求できませんでした。もしくは慰謝料を請求する訴訟を起こしてもなかなか勝てませんでした。
しかし2008年に名古屋高裁が、ペットの犬が交通事故によって負傷し、飼い主が損害賠償と慰謝料を求めた民事訴訟で、かなり踏み込んだ判決を出しました。
裁判官は、犬の治療費の補償の上限額を「必ず時価以下にしなければならないわけではない」と判断したのです。
つまり、ペットの時価を超える補償をしてもよいと判断し、愛犬の購入代金65,000円を超える136,500円の損害賠償を認めたのです。
さらにこの裁判官は、飼い主の精神的苦痛が「財産的損害の賠償では慰謝されない」として、慰謝料20万円の支払いも被告(自動車の運転者である加害者)に命じました。
この裁判官が重視したのは、飼い主がその犬を家族の我が子のように愛情を注いでいたことでした。
裁判官はさらに、「愛玩動物は生命を持つ」「愛玩動物は飼い主との交流を通じて家族の一員のような存在になる」と言い、「このことは広く世間に知られている」とも言及しました。
つまり飼い主がペットを失ったときのペットロスを重く考えたのです。
飼い主の責任も問われる「過失相殺」という考え方
ここで自動車保険の話に戻ります。交通事故によってペットがケガをしたり死んだりしたら、飼い主には運転者の自動車保険の対物賠償保険から保険金が支払われます。
このとき過失相殺もおこなわれます。
飼い主が犬にリードをつけておらず放し飼い状態だったり、リードをつけていても犬が急に道路に飛び出したりしたら、自動車の運転者と飼い主の過失割合が算出されます。
飼い主に過失が大きい判定がなされた場合、過失相殺されて保険金が支払われないことも起こり得ます。
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愛犬が人を噛んだら飼い主の責任はどうなるのか
交通事故ではありませんが、愛犬は「被害犬」になるだけでなく「加害犬」になることもあります。
犬を含むペットは「物」なので人や物に危害を加えても加害者になることはできません。加害者にならないということはペットに責任はないということです。
その代わり、飼い主が責任を問われます。
このような事例があります。
飼い主のミスで大型犬のリードを手放してしまい、その犬が飛びついた高齢者が転倒して骨折しました。高齢者は2回手術を受けましたが自力歩行はできなくなりました。
高齢者が損害賠償を求める訴訟を起こしたところ、被告(飼い主)に320万円の慰謝料が命じられました。
ペットが受ける被害の補償が広く認められる一方で、ペットの加害についても厳しく判断されるということです。飼い主は注意しましょう。
まとめ
ペットが被害に遭っても人や物を傷つけても、飼い主はつらい思いをします。飼い主は、犬を散歩させるときやペットを車に乗せて移動するときは、しっかり管理しましょう。
ドッグラン以外の公共の場所で犬のリードを外してしまう人がいますが絶対にやめましょう。犬は予期せぬ行動に出ることがあることは飼い主が一番知っているはずです。
また自動車のなかでは、ペットは専用の箱のなかに入れておきましょう。ペットには少しかわいそうですが、事故を起こす不幸を考えれば仕方がない処置ではないでしょうか。
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