交通事故で知っておくべき示談の具体的な手順と6つのポイント

「交通事故に遭うと被害者と加害者が示談をおこなう」ということを聞いたことがあると思います。
しかし、実際にどのように示談をすればいいかまで詳しく理解している人は少ないと思います。
ここでは、誰と、いつ、どのように示談交渉をするのか、また示談書を作成する際に注意すべきポイントや示談が成立しなかった場合あるいは示談金を約束どおりに支払ってもらえない場合の対処法などについて詳しく解説します。
- 目次
示談交渉の相手
1-1.示談とは
示談とは、当事者同士で話し合いをおこなって問題を解決することです。交通事故では、損害賠償という問題解決のために示談をおこないます。
1-2.示談交渉は誰を相手にすればよいのか
交通事故において、示談は事故の当事者同士でおこないます。ですから、基本的には交通事故の被害者と加害者がおこなうことになります。
ただし、加害者が任意保険に加入していれば、一般的には被害者との示談交渉を加害者の保険会社が代行してくれます。
では、被害者も任意保険に加入していれば、被害者の保険会社は代行してくれるのでしょうか。
被害者が任意保険に加入しており、被害者に過失のある事故の場合に限り、被害者の保険会社が、加害者との示談交渉を代行できます。
保険会社が示談を代行できない場合
被害者に過失のある事故では、被害者の保険会社が示談交渉を代行できると説明しました。しかし、被害者の保険会社が示談を代行できない場合があります。
弁護士法第72条では、弁護士以外の者が、報酬を得る目的で他人のために法律行為をおこなうことを禁止しております。
保険会社は「契約者が相手方に損害賠償金を支払う」際に、契約者に代わって損害賠償金を支払う義務があります。
したがって、被害者(契約者)に過失のある事故の場合、被害者(契約者)の代わりに示談交渉をおこなうことができます。
これは他人のためではなく、自社のために示談交渉をおこなっているとみなされます。ですから、契約者に過失のある事故であれば、保険会社が示談交渉を代行できるのです。
しかし、100%相手方に過失のある事故の場合、被害者(契約者)が相手方に損害賠償金を支払う必要がありません。
この場合、保険会社が契約者のために示談交渉を代行すると、「他人のために」報酬を得る目的で法律行為をおこなうことになります。
したがって、被害者(契約者)に過失がない事故の場合、保険会社が示談交渉を代行できないのです。
死亡事故の場合
交通事故によっては死亡事故になることもあります。この場合、当然のことながら被害者自身が示談交渉をおこなうことはできません。では、誰が示談交渉をするのでしょうか。
死亡事故では被害者のすべての相続人と示談交渉をします。
被害者のすべての相続人と示談交渉をするということは、加害者が被害者の相続人が全員一致した意思かどうかを確認し、そのうえで被害者のすべての相続人と示談書を交わす必要があるのです。
一方、被害者のすべての相続人に共通の弁護士がつくことがあります。この場合、相続人共通の弁護士と示談交渉をおこなうことになります。
未成年者が交通事故の当事者である場合
事故の当事者が成人ではないこともあります。未成年だと示談の当事者にはなることができません。ではどうすればいいのでしょうか。
この場合、当事者の親権者に対して示談交渉をおこないます。
ただし、以下の場合は、事故の当事者が成人でなくても、法的には成人と同様に扱われるため(成年擬制)、示談交渉の当事者になれます。
被害者が判断能力を喪失している場合
交通事故では、程度によって、昏睡状態に陥るなど被害者が判断能力を喪失してしまう場合(意思無能力者)があります。
当然のことながら、意思無能力者は自分で示談交渉をおこなうことができません。
このような場合は、まず裁判所に被害者の後見人を選任してもらいます。そして選任された後見人に対して示談交渉をおこなうことになります。
示談のタイミングについて
示談交渉をおこなう相手について説明しました。では、示談交渉はいつの時点でおこなえばいいのでしょうか。
示談交渉は、損害額がすべて確定してからおこないます。 損害額がすべて確定していれば、いつ示談交渉を始めてもかまいません。
ただし、交通事故の損害賠償を請求するには事故日から3年という時効があります。したがって、事故日から3年以内に示談交渉を成立させる必要があります。
もし、事故日から3年が過ぎてしまった場合であっても諦めてはいけません。
交通事故後に加害者本人や保険会社から治療費など損害賠償金の一部が支払われることがあります。このとき、最後に支払いを受けた日から3年の時効期間が改めて進行することになります。
これを時効の中断といいます。
以下に適切な示談交渉のタイミングについて具体的に説明します。
2-1.傷害事故の場合(死亡事故を除く)
傷害事故では、原則として症状固定のタイミングで損害がすべて確定します。症状固定とは、これ以上治療を続けても症状の改善が見込めない状態をいいます。
つまり、示談交渉は症状固定後におこなうことになります。
2-2.死亡事故の場合
交通事故では場合によって死亡事故になることもあります。死亡事故の場合、基本的には被害者の葬儀の段階で損害金額が確定しています。
しかし、死亡事故の示談交渉は四十九日の法要を終えてからおこなうべきでしょう。もし四十九日の法要よりも早く示談交渉を持ちかけると、遺族感情を損ねる可能性があります。
このようになってしまうと、示談交渉をおこなえなくなることもあります。死亡事故の示談交渉時期については注意が必要です。
示談交渉の流れ
3-1.損害項目を算出する
示談交渉では損害賠償金額を決めることになります。したがって、まず交通事故で生じた損害額をすべて計算しなければなりません。
交通事故の損害項目は、大きく人身損害と物的損害の二つに分けられます。
それぞれの損害は下記のようなものになります。これらの損害をすべて項目ごとに算出し、損害総額を算出することになります。
人身損害
物的損害
3-2.既払い額の確認
示談交渉の前に、修理代や治療費などの一部の損害金額を、加害者本人あるいは加害者の保険会社から支払われている場合があります。
この場合、すでに支払われた金額を、前述で算出した損害総額から減額します。
追突事故のように加害者に100%過失のある事故の場合、損害総額から既払い金額を減額した額で示談交渉をします。
では被害者にも過失のある事故の場合はどうでしょうか。この場合、過失割合に応じて損害金額から減額をおこないます(過失相殺)。
この過失相殺された金額から既払い額を控除した金額で示談交渉をおこないます。
3-3.弁済の時期と方法の決定
示談交渉をする金額が決まれば、最終的に示談金の弁済時期と返済方法を決めます。具体的に決めるのは以下の項目になります。
実際に示談を支払うのが加害者の保険会社なら、資力は十分にあるということです。
この場合、示談交渉から1か月程度で被害者に示談金全額が支払われます。したがって、弁済の時期や方法について具体的に決めなくてもかまいません。
保険会社と示談交渉する際は「免責証書」という書面を交わします。書面内容は示談金額と振込先口座くらいしか記載されていないことが一般的です。
ただし、示談交をする相手が、保険会社ではなく個人の場合は注意が必要です。個人の場合、一括で示談金を支払うだけの資力がないこともあります。
したがって、示談の相手が個人の場合は、弁済の時期と返済方法をきちんと決めておきましょう。
3-4.請求清算・放棄条項の確認
交通事故の示談交渉とは、当事者間での損害賠償の解決が目的です。
しがたって、示談書には、一般的に「事故による示談の時点の損害賠償請求権以外の債権債務は互いに存在しない」という確認条項を入れます。
この条項を入れておけば、当事者が双方ともに示談交渉を蒸し返すことができません。
ただし、示談交渉の段階で予測ができなかった後遺障害が発生することもあります。
この場合、後遺障害に関する損害賠償については示談の効力がおよばず、再び示談交渉ができるとされています。もし示談交渉をおこなったあとに後遺障害が認められた場合も諦めてはいけません。
示談書作成のポイント
当事者同士で示談交渉をおこない、前述の内容についてまとまれば、示談交渉した内容を明確にするため、示談書を作成します。 一般的に、示談書には下記のような内容を記載します。
4-1.当事者
当事者を特定するために住所・氏名を記載します。当事者が複数の場合、当事者全員を記載することになります。「1-2.示談交渉は誰を相手にすればよいのか」で述べた点に注意して記載してください。
4-2.事故の特定
交通事故の場所、事故日時、事故車両(車両番号)、場合により事故態様などで事故を特定します。これらの情報は、一般的に交通事故証明書で確認します。
4-3.被害内容
交通事故の被害内容がについて下記のいずれかを記載します。
交通事故が傷害事故の場合、被害の程度や後遺障害の内容なども記載しておきましょう。交通事故によっては、人身損害と物損ともに損害があることがあります。
このとき、先に物損のみの示談交渉をおこなうことがあります。この場合は「当該の示談交渉が物損部分についてのみの示談交渉である」という内容の記載しておくことが大切です。
4-4.示談内容
示談内容としては以下のように支払い条件などを記載します。
示談内容が示談書のメインの内容になります。 「3 示談交渉の流れ」で説明した内容に留意して記載するようにしてください。
4-5.留保条項
人身事故では、示談交渉の後に後遺障害などの症状が生じるなど、示談交渉の段階では予測できないような損害が発生する場合もあります。
このような場合に備えて、一般的には「示談交渉後に後遺障害が認められた場合、別途当事者同士で損害賠償について協議する」という内容の条項を加えます。
4-6.示談成立年月日
示談書には、示談交渉が成立した年月日も記載することを忘れないようにしましょう。
示談がまとまらない場合
示談交渉はすんなりまとまるとは限りません。 示談交渉がまとまらず、当事者同士での示談交渉が継続できないこともあります。この場合、以下のいずれかの方法で紛争解決をおこないます。
訴訟の提起に関しては、以下の記事を参考にしてください。
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公益財団法人交通事故紛争処理センターについては、以下の記事を参考にしてください。
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示談金が支払われない場合
示談交渉が成立しても、定めた支払期限までに示談金が支払われない場合もあります。
この場合は、相手方に連絡を取って、支払いを請求します。支払い請求をしても相手方からの支払いがない場合には訴訟を提起します。
訴訟をおこない、勝訴または和解をして、相手方が金銭を支払うことが決まったとします。それにもかかわらず、相手方が金銭を支払わないということもあります。
このような場合は、最終手段として、相手方の資産差し押さえなどを強制執行することで回収します。 強制執行については以下の記事を参考にしてください。
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おわりに
以上、交通事故の示談交渉について説明しました。
当事者間で揉めている場合や示談交渉の相手方に保険会社や弁護士が出てきた場合など、個人で対応すると、適正ではない金額で示談交渉に応じてしまうこともあります。
このような事態を避けるためにも、交通事故の示談交渉をおこなう際は、弁護士に相談することをお勧めします。
加入している任意保険に弁護士費用特約が付けている場合は、保険会社に弁護士費用を負担してもらえますので、活用してみてはいかがでしょうか。
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