交通事故の示談でありがちな失敗と回避方法

示談交渉
交通事故の示談でありがちな失敗と回避する方法

交通事故に遭うと被害者と加害者が示談交渉をおこないます。では、具体的にいつ、誰と、どのように示談をおこなえばいいのでしょうか。


交通事故における示談とは、交通事故の当事者同士が話し合いで問題を解決することをいいます。したがって、一度示談を成立させると、基本的に示談の内容を変更できません。


ここでは失敗しがちな示談のパターンをいくつか挙げ、示談で失敗しないための方法について詳しく説明します。

目次
  1. 警察へ届け出を出さず、その場で示談をしてしまう
  2. 交通事故の損害が確定する前に示談をする
  3. 損害賠償請求の時効が経過してしまう
    1. 仮渡金の支払いを受ける
    2. 加害者に債務承認させる
    3. 調停、訴訟を申し立てる
  4. 損害項目の漏れや誤った損害の計算で示談をする
  5. 適正でない金額での示談
    1. 自賠責保険基準
    2. 任意保険基準
    3. 裁判(弁護士)基準
  6. 過失相殺や損益相殺を考慮していない示談
    1. 過失相殺
    2. 損益相殺
  7. 相手方を間違えた示談は無効になる
  8. 失敗しない示談書の作成方法とは
  9. おわりに

警察へ届け出を出さず、その場で示談をしてしまう

交通事故が発生した場合、警察へ事故報告を行うことは義務となっています。

ただし、穏便に済ませたいと考える加害者から、その場で当人同士の示談を提案されることがあります。

しかし、その場での示談は絶対におこなってはいけません。

その理由として、交通事故の現場で示談をおこなってしまうと、後になって重篤な後遺障害が生じたとしても、一切賠償金を請求できなくなる可能性があることが挙げられます。

さらに、警察に通報せずにいると「事故証明書」が発行されません。

この事故証明書とは、どういった事故があったかを公的に証明する証拠です。

通報せず、事故証明書が発行されなかった結果、あとで後遺症が出ても加害者が態度を覆して事故に対応してくれない可能性もあります。

また事故があった事実を証明するものがないため、損害賠償請求をおこなったとしても、その内容や金額に大きく影響が出てしまいます。

たとえどんなに相手から頼まれても、警察への通報をせず交通事故の現場で示談をおこなおうとしてはいけません。

交通事故の損害が確定する前に示談をする

交通事故に遭うと、被害者はケガをしたり車両が損傷したりと、多くの損害を被ります。
したがって、損害賠償金を早く受け取りたいがために、早く示談をしたいと考えることもあるでしょう。

交通事故において、示談とは交通事故の当事者同士が話し合って解決を図ることです。

一旦示談が成立すると、示談後に後遺症などの損害が生じても基本的に損害賠償を請求できません。
このような事態を防ぐために、示談交渉は損害額がすべて確定してからおこないましょう。

では、交通事故に遭ったら、いつ示談交渉を開始するのがいいでしょうか。

交通事故による損害は、物損と人身損害とに大別されます。

一般的に物損は人身損害よりも先に損害額が確定します。したがって物損のみを先に示談することもできます。
このように、物損のみを先に示談交渉する場合は、示談書に「物損のみの示談である」ことを明示しておきましょう。

交通事故の人身損害は、原則として治療終了時あるいは症状固定時に確定します。

症状固定とは、治療を続けてもこれ以上症状の改善が見込めない状態をいいます。示談交渉を開始するのは治療終了後あるいは症状固定後になります。

ただし、示談終了後に予期せぬ後遺障害が生じることもあります。このような場合、例外的に示談終了後の後遺障害に対する損害賠償請求ができます。

万が一、示談終了後に後遺障害が発生したとしても、諦めずに損害賠償を請求しましょう。

損害賠償請求の時効が経過してしまう

交通事故の損害賠償請求が可能な期間は、原則として交通事故日から3年となっています。

交通事故の被害者が交通事故発生日から3年が経過したあとに示談交渉をしようとしても、時効のために損害賠償金の支払いを拒まれる可能性があります。

時効の中断方法としては下記があります。

  • 仮渡金の支払いを受ける
  • 加害者に債務承認させる
  • 調停、訴訟を申し立てる

仮渡金の支払いを受ける

加害者や保険会社から治療関係費用など損害賠償金一部を支払ってもらう方法があります。

支払いの際には「支払う金額は一時的なもので、示談金自体の支払い義務はまだ終わっていない」と認めさせておくことが重要です。

後から「既に支払い済み」などと言い逃れされないように、念書などで証拠を残しておきましょう。

加害者に債務承認させる

お金がないことを認める文章や借金などの債務が存在することを認める文章にサインをすることが債務承認にあたります。

そもそも「返済」をしている行為は債務のある前提なので、治療費や休業損害、通院交通費などを支払う行為は自ずと債務承認と考えられます。

従って少額でも支払いをしていれば、時効中断効があります。

調停、訴訟を申し立てる

示談交渉が長引く場合には、和解での解決にこだわらず調停を申し立てることも方法の1つです。

示談が長引くと、いつまでも損害賠償金を受け取れず被害者にとっては非常に困る状態が続きます。

まず調停を申し立てて、それでも解決しない場合は訴訟の申立ても考えましょう。

いきなり裁判を起こすことが億劫であれば、ADR機関などを利用するのも良いでしょう。従来、ADR手続きには時効の中断効はありませんでした。

しかし現在は認証を受けたADR機関を利用した場合は時効中断効が認められています。時効の中断をおこなうと、その時点から改めて3年の時効期間設けられます。

時効の中断がある場合、交通事故日から3年が経過したからといって、加害者は損害賠償金の支払を拒むことはできません。

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損害項目の漏れや誤った損害の計算で示談をする

損害賠償金額を決めるためには、交通事故で発生したすべての損害を計算する必要があります。

人身損害は、治療関係費用入院費用葬儀関係費用休業損害慰謝料などがあります。 物的損害には、修理費用、代車費用、レッカー代など多岐にわたります。

交通事故で示談交渉をおこなう場合、これらの損害をすべて項目ごとに計算し、損害額の総額を算出する必要があります。

損害項目に漏れがあったり、損害金額を間違って計算して示談をしてしまうと、損害賠償金額が大きく変わってしまいます。示談をする際は注意しましょう。

適正でない金額での示談

交通事故の当事者は、被害者であっても加害者であっても、提示された損害賠償金額を鵜呑みにしてはいけません。

交通事故で提示される損害賠償金額が適正でない場合もあるためです。示談を成立させる前に慎重に検討しましょう。

では、提示された金額が適正であるかどのようにして判断すればいいのでしょうか。

交通事故の損害賠償金には3つの算定基準があります。

自賠責保険基準

自賠責保険は、自動二輪車を含め、すべての自動車を運転する人に加入が義務付けられている「強制保険」です。自賠責保険は交通事故の被害者の救済を目的としています。

自賠責保険は被害者に対して最低限の補償を目的としているため、自賠責保険基準は3つの基準のうち最も低額な基準になります。

任意保険基準

任意保険は、自賠責保険でカバーできない損害を補填するために加入する自動車保険です。自賠責保険と異なり、任意で加入する保険のため「任意保険」と呼ばれています。

任意保険基準は公開されていませんが、自賠責保険基準と後述の裁判基準の中間の金額とも言われています。

任意保険基準は保険会社によって異なります。なかには、自賠責保険基準と変わらない金額を提示されることもあるようです。

裁判(弁護士)基準

裁判基準は、交通事故の損害賠償請求を弁護士に依頼した際に弁護士が使用する基準です。そのため「弁護士基準」とも言われています。

裁判基準は交通事故の過去の判例を基準としていることから、最も妥当な金額とされています。したがって、裁判基準は前述の2つの基準よりも高額な基準になります。

交通事故で加害者側の保険会社と示談交渉をすると、保険会社は任意保険基準に基づいた損害賠償金額を提示します。

このとき弁護士に示談交渉を依頼することで、最も高額な裁判基準で示談交渉をしてもらえます。

過失相殺や損益相殺を考慮していない示談

過失相殺

過失相殺とは、被害者側にも過失がある交通事故の場合に、過失の割合に応じて損害賠償額から減額することです。

人身損害と物損が両方生じた交通事故では、物損事故に関して先行して示談をおこなうこともあります。

このとき被害者にとって不利な過失割合で示談交渉をしてしまうと、後でおこなう人身事故の示談交渉においても被害者にとって不利になってしまいます。
過失相殺は慎重におこないましょう。

損益相殺

損益相殺とは、被害者またはその相続人が事故に起因して何らかの利益を得た際に、その利益分を損害賠償額から減額することです。つまり損害を二重取りできないということです。

例えば、交通事故の被害者が自賠責保険から損害賠償金を受け取った場合は、その部分については損益相殺の対象となり、加害者側に対して請求することができません。

損益相殺を考慮せずに示談交渉をおこなうと、加害者が本来支払う必要のない金銭を被害者に支払うことになります。

被害者にとっても、利益を得ているにもかかわらず、故意にそのことを隠したまま示談をして利益を二重に得ると詐欺罪に問われる可能性があります。

示談交渉の際は必ず申告しましょう。

相手方を間違えた示談は無効になる

示談をする相手を間違えると、示談の内容が合理的であっても示談は無効になります。
示談交渉をする相手方は、原則として当事者、またはその代理人(保険会社含む)です。

被害者が死亡した場合は、当然被害者自身が示談交渉をすることはできません。したがって被害者の相続人全員が示談交渉をすることになります。

注意しなければならないのは「被害者の相続人全員と示談をしなければならない」ことです。

加害者は被害者の相続人全員が一致した意思を確認したうえで、被害者の相続人全員と示談書を締結しなくてはなりません。相続人の一部の者とのみ示談交渉をしても示談は有効になりません。

もし被害者の相続人全員に共通の弁護士がいる場合は、その弁護士と示談交渉をおこないます。

また事故の当事者が未成年である場合もあります。未成年は示談の当事者にはなれないので、親権者を相手として示談をしなければなりません。

ただし、未成年であっても結婚したり婚姻歴がある場合は、法的には成人と同じように扱います。これを成年擬制(せいねんぎせい)といいます。
この場合、未成年であっても示談の当事者になることが可能です。

交通事故では、事故によって負傷し昏睡状態になるなど、被害者に判断能力がなくなってしまう場合もあります。

このような状態を意思無能力者といいます。この場合示談を締結することができません。

意思無能力者と示談交渉をするには、裁判所に後見人を選任してもらい、選任された後見人を相手として示談交渉をすることになります。

失敗しない示談書の作成方法とは

保険会社と示談交渉をする場合、「免責証書」という書面を交わすことがほとんどです。免責証書には示談金(損害賠償金)の額と振込先の口座程度しか記載されません。

もちろん、それでも問題はありません。

しかし、個人同士の示談の場合には、

  • どのような事故についての示談か
  • 示談金(損害賠償金)はいくらか
  • 支払回数・期限
  • 清算条項
  • 将来の後遺症に関する条項

などをしっかりと定めておきましょう。これにより後の争いのリスクを抑えることができます。

清算条項については、一般的に「事故による示談の時点での損害賠償請求権以外の債権債務は相互に存在しないこと」という確認条項を入れることが多いです。

将来的に予期せず発症した後遺症に関しては、「示談後に予期せず後遺障害が発生した際には新たに協議する」内容の条項を入れるのが一般的です。

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おわりに

以上が示談交渉で失敗しがちな点と失敗しないための注意点です。

特に複雑な事故や当事者間で争いが生じている場合には個人で示談交渉をすることはリスクが大きくなります。
このような場合、交通事故に強い弁護士に相談することをおすすめします

特に被害者の加入している自動車保険に弁護士費用特約が付いている場合、弁護士費用を保険会社が負担しますので大変便利です。

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