自転車で交通事故の被害に。自動車事故との過失割合や保険の違いについて解説。

交通事故は、自動車や単車、歩行者の間だけで起こるものではありません。
自転車が被害に遭うことも珍しくありませんし、ときには加害者になることもあり、自転車事故は年々増加しています。
自転車の事故には、過失割合や保険の有無など、自動車の事故と異なる特徴があり、適正な損害賠償を請求するには、それらの特徴を正確に理解する必要があります。
そこで今回は、自転車事故の特徴や自転車事故に巻き込まれた場合の対処法、示談交渉の進め方などを解説します。
- 目次
自転車事故の特徴
1-1.自転車事故の発生原因
自動車事故と共通の発生原因
自転車の事故には、一方の信号無視や一時停止違反など、自動車同士の事故と同じような原因のものがあります。
二輪車特有の発生原因
自転車や単車のような二輪車に特有の事故発生原因として、次のようなものがあります。
✔ 左折する自動車が直進する二輪車を巻き込む事故
✔ 先行する自動車のドアの開閉時に後方から進行してきた二輪車が衝突する事故
1-2.保険の有無
自動車の場合、自賠責保険への加入が義務付けられています。そのため、自動車事故の場合、被害者は人身損害については自賠責保険から最低限の補償を受けることができます。
これに対し、自転車の場合、自賠責保険のような強制保険はありません。ですから、自転車事故で加害者になった場合、基本的に加害者自身が被害者の損害を賠償しなければなりません。
自転車事故であっても、歩行者に重大な傷害を負わせたり、死亡させたりする可能性はあります。現に、自転車事故の加害者に数千万円の損害賠償を命じる判決が出されたこともあり、大きな社会問題となっています。
そこで、一部の自治体では自転車保険の加入を義務付ける条例を制定しており、今後もそのような自治体が増加するものと考えられます。
1-3.過失割合の修正
先ほど紹介したとおり、自転車事故の発生原因には、自動車同士の事故と同様のものがあります。
しかし、同じような事故であっても、自転車事故の場合、自動車同士の事故と比べると、基本的に自転車の責任が軽減されます(過失割合が小さくなります)。
例えば、一方が赤信号を無視して交差点に進入し、青信号で進行してきた被害者と出合い頭に衝突したという事故を想定してください。
自動車同士の事故だった場合、多くの方が予想されるとおり、基本的に過失割合は100:0になります。ところが、赤信号を無視したのが自転車だった場合、過失割合は基本的に80:20になります。
いいかえれば、自動車は、青信号に従って走行したにもかかわらず、2割の責任を負うということです。 事故が発生した場合、自転車側は、自動車側と比べると圧倒的に大きな損害をこうむることになります。
そこで、そのような立場の弱い自転車を保護するため、自動車側により高度の注意義務が課されるべきとの考えから、自転車の責任が軽減されているのです。
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自転車事故の過失割合の具体例
それでは、自転車事故の過失割合は具体的にどのように定められているのでしょうか。
自転車対自動車の事故と、自転車対歩行者の事故とに分けて、代表的な事故態様の基本的な過失割合を紹介します。
2-1.自転車対自動車
信号機のある交差点における直進車同士の事故
信号機のある交差点における右折車と対向方向からの直進車との事故
信号機のない交差点における同一道路の右折車と直進車の事故
信号機のない交差点に交差道路から進入した場合の事故
交差点における左折自動車と直進自転車
2-2.自転車対歩行者
次に、自転車対歩行者の過失割合を紹介します。四輪車対歩行者の事故と比べると、同じような事故態様の場合、わずかに自転車の過失割合が小さくなっていることが多いといえます。
対歩行者の関係で、自転車よりも四輪車の方がより高度の注意義務が課せられているからです。
横断歩道上の事故
信号機のある交差点における直進同士の事故
信号機のある交差点における自転車右左折、歩行者直進の事故
信号機なし
信号機のない交差点で横断歩道を横断中の場合、歩行者0:自転車100
ただし、自転車横断帯内で歩行者と自転車が衝突した場合、歩行者5:自転車95
横断歩道付近の事故
直進自転車が横断歩道通過後に歩行者に衝突した場合
右左折自転車が横断歩道を通過後に歩行者と衝突した場合
横断歩道の手前で衝突
交差点以外
歩行者35:自転車65
横断歩道のない場合の事故
横断歩道のない交差点やその直近における事故
歩行者15:自転車85
交差点以外の場所
歩行者20:自転車80
自転車事故に巻き込まれた場合の対処法
3-1.負傷者の救護、警察への報告
交通事故が発生した場合、その事故に関わった車両の運転者には、負傷者を救護したり、事故のあったことなどを警察に報告したりする義務があります(道路交通法72条1項)。
ここでいう「車両」には、軽車両も含まれます。自転車は軽車両にあたるため、自転車の運転者にも負傷者の救護や警察への報告の義務があります。これらの義務を怠ると刑罰を科される恐れがあります。
通常は加害者が通報することが多いのですが、四輪車との事故で相手方が通報しようとしないときは、自転車の運転者が通報しましょう。また、歩行者と事故を起こしてしまった場合にも、必要な救護をするとともに、警察に通報しましょう。
また、警察に通報すべき理由は、刑罰を免れるためだけではありません。 交通事故に基づく損害賠償を請求する場合、交通事故証明書で交通事故が発生した日時、場所、当事者を証明します。
ところが、警察に通報しなければ交通事故証明書が発行されないため、交通事故のあったことを証明することができず、損害賠償が認められなくなってしまうのです。ですから、必ず警察に通報しなければなりません。
3-2.人身事故扱いにしてもらう
軽微な事故の場合、加害者から、「物損事故扱いにしてほしい」と頼まれることがあります。
しかし、物損扱いにすると、事故後しばらくして痛みが出てけがをしていることが分かった場合に、傷害についての損害賠償を受けられなくなるおそれがあります。
また、物損事故は刑事事件にならないため、物損扱いにすると、警察は簡単な書類を作成するだけで、それ以上の捜査をしません。
そうなると、後になって相手方との間で事故態様などについて争いになってしまった場合、自分の言い分を証明する証拠がないということになりかねません。 ですから、被害者になった場合は、人身事故扱いにしてもらうべきです。
3-3.相手方の氏名、連絡先などの確認
自転車事故に限ったことではありませんが、後日の示談交渉に備えて、相手方の氏名、住所、連絡先、勤務先などを確認しておく必要があります。
軽微な事故の場合、加害者からその場で示談をもちかけられることもありますが、後になって予想していなかった症状が出ることもありますので、その場での示談は避けるべきです。
3-4.証拠の保存
人身扱いにすれば、警察が実況見分調書などを作成してくれます。しかし、警察が来るまでは、謝罪したり、非を認めたりしていた加害者が、警察が来たとたんに態度を変え、「自分の方が青」だったと主張することも珍しくありません。
写真を撮ったり、会話を録音したり、目撃者にその場に残ってもらったりするなど、自分でもできる証拠の保存をするといいでしょう。
3-5.保険の有無、契約内容の確認
自転車保険に加入しているかを確認する必要があります。 自転車保険には、対人賠償だけでなく、自分がけがをした場合に補償されるものなど、さまざまな種類があります。 自動車保険に加入している場合には、保険契約の内容も確認しましょう。
3-6.医師の診察を受ける
事故直後は特に異常を感じなくても、時間がたってから痛みなどが出ることは珍しくありません。
事故から時間がたって診察を受けた場合、事故と傷害との因果関係が認められないとして、損害賠償が認められないおそれがあります。 ですから、念のため、事故直後に病院で診察を受けておくといいでしょう。
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示談交渉の進め方
4-1.基本的な進め方
示談交渉の基本的な進め方は、自動車事故の場合と変わりありません。
被害者が症状固定した後、後遺障害がある場合には後遺障害等級の認定を受け、被害者の損害を算定して、賠償額について合意ができれば、示談が成立します。
自動車事故の場合、基本的に加害者側は保険会社が示談を代行します。一方で全国的に見ると、まだまだ多くの方が自転車保険に加入していないのが現状です。
したがって自転車事故の場合、自転車の運転者本人が交渉に当たらなければならないという違いがあります。
4-2.示談交渉で困ったときは
自転車の運転者が示談交渉を行うと言っても、自転車事故にはこれまで紹介した特有の問題があります。
過失割合なども事故態様ごとに詳細に定められているため、正しい知識がなければ適正な損害賠償額を算定することができません。
ですから、自転車の運転者自身が示談交渉を行うことは簡単ではないでしょう。
示談交渉で困ったときは、弁護士に相談・依頼することを検討した方がいいでしょう。
まとめ
今回は、自転車事故について解説しました。今回の記事が自転車事故でお悩みの方に少しでも参考にしていただければ幸いです。
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