道を譲らないと違反?緊急車両との交通事故で過失割合はどうなるのか。

過失割合
道を譲らないと違反?緊急車両との交通事故で過失割合はどうなるのか。

消防車などの緊急車両と一般の車両の事故が起きた場合、過失割合はどうなるのでしょうか。緊急車両には一切の責任が問われないというわけではありません。しかし、一般の車両同士での事故の場合とは違った考え方がされています。

ここでは、緊急車両との事故の場合の過失割合について解説します。

目次
  1. 緊急車両とは
  2. 緊急車両が免除されている交通ルールとは
    1. 左側通行のルール
    2. 一時停止のルール
    3. その他のルール
  3. 緊急車両の通行を妨害すると違反にあたるのか
  4. 緊急車両との事故の具体例
  5. 緊急車両が事故の当事車両になった場合の過失割合とは
    1. 過失割合とは
    2. 緊急車両と一般車両の交通事故による過失割合の基本的な考え方
    3. 別冊判例タイムズにおける緊急車両が当事者となった事故類型
    4. 緊急車両のその他の事故類型
  6. 緊急車両の自動車保険事情とは
  7. まとめ

緊急車両とは

そもそも緊急車両とは何なのでしょうか。法律上の定義をみていきます。

道交法39条は、「緊急自動車」のことを「消防用自動車、救急用自動車その他の政令で定める自動車で、当該緊急用務のため、政令で定めるところにより、運転中のものをいう。」 と定義しています

この緊急自動車が一般的に「緊急車両」と呼ばれている車両です。

「政令で定める自動車」とは、道交法施行令13条に定められている次の自動車です。
  1. 同条1項の1号から15号までに定められている目的のために使用される自動車で、その自動車を使用する者の申請に基づき公安委員会が指定したもの
  2. 緊急自動車である警察用自動車に誘導されている自動車又は緊急自動車である自衛隊用自動車に誘導されている自衛隊用自動車(同条2項)

緊急自動車とされるものの例を挙げると、

  • 消防用の自動車
  • 救急用の自動車
  • 警察用の自動車
  • 自衛隊用の自動車
  • 輸血に用いる血液製剤の応急運搬のための自動車
  • 高速道路の道路を管理するための自動車

などがあります。

① の自動車は、原則

緊急の用務のために運転するときは、サイレンを鳴らし、かつ、赤色の警光灯をつけなければならない(同施行令14条)

とされています。

緊急車両が免除されている交通ルールとは

緊急車両は、以下のようなルールを免除されています。

左側通行のルール

やむを得ない理由があるときは、道路の右側部分にその全部または一部をはみ出して通行することができます(道交法39条1項)。

一時停止のルール

一般車両が踏切や赤信号などで法令の規定により停止しなければならない場合においても、一時停止することなく通行することができます(同条2項)。

その他のルール

その他にも、以下のようなさまざまなルールを守ることを免除されています。

  • 通行止めの標識がある道路や安全地帯など一般の車両が通行してはならないというルール
  • 左寄り通行のルール
  • 転回禁止のルール
  • 進路変更禁止のルール
  • 追い越し禁止のルール
  • 交差点での右左折の方法についてのルール
  • 横断歩道またはその付近の通行方法に関するルール
  • 最高速度の規制に関するルール

なお、最高速度を超えて走行してもいいのは、最高速度違反の車両などを取り締まる緊急自動車です。その他の緊急自動車は最高速度を守らなければなりません。

緊急車両の通行を妨害すると違反にあたるのか

道交法40条は、次のように緊急自動車が優先されることを規定しています。

1項 交差点又はその附近において、緊急自動車が接近してきたときは、路面電車は交差点を避けて、車両(緊急自動車を除く。以下この条において同じ。)は交差点を避け、かつ、道路の左側(一方通行となつている道路においてその左側に寄ることが緊急自動車の通行を妨げることとなる場合にあつては、道路の右側。次項において同じ。)に寄つて一時停止しなければならない。

2項 前項以外の場所において、緊急自動車が接近してきたときは、車両は、道路の左側に寄つて、これに進路を譲らなければならない。

このような義務に反して、緊急車両の通行を妨害した場合には、反則金が課されることになります。

緊急車両との事故の具体例

緊急車両と一般の車両との事故でよく見かける事故は交差点における出合い頭の事故です

上述のように、緊急車両は赤信号でも停止することなく交差点に進入することが許されています。

そのため、青信号で侵入した一般の車両と赤信号で侵入してきた緊急車両が出合い頭に衝突するという事故が起こりやすいのです。

その他にも、緊急車両は右側にはみ出して走ることが許されていますので、センターオーバーした緊急車両と対向の一般車両が正面衝突する事故などもあります。

緊急車両が事故の当事車両になった場合の過失割合とは

緊急車両が事故の当事車両になった場合の過失割合とは

過失割合とは

過失割合とは、交通事故に関する当事者の責任の割合を比率で表したものです。

交通事故の損害賠償を請求する場合、この過失割合に応じて、損害賠償金額が減額されることになります(過失相殺)。

過失割合は、通常、過去の裁判例の判断を目安に決めていくことになります。

法律実務では、判例タイムズ社が出版する「民事交通訴訟における過失相殺等の認定基準」(以下「別冊判例タイムズ」と呼ぶ)という書籍を参考に判断されるのが一般的です

別冊判例タイムズは、交通事故の態様ごとに基本となる過失割合と基本の過失割合を修正すべきさまざまな要素などを掲載しています。

緊急車両と一般車両の交通事故による過失割合の基本的な考え方

ここまで説明したように、緊急車両は一般の車両に課されているさまざまな義務を免除されています。また、一般車両は緊急車両を妨害してはいけないという義務があります。

つまり、緊急車両は法律によって一般の車両より優先的な地位を与えられているのです。

このような緊急車両の特殊性から、緊急車両と一般車両との間で交通事故が起きた場合、多くのケースで一般車両の方に大きな過失が認められることになります

別冊判例タイムズにおける緊急車両が当事者となった事故類型

信号機による交通規制のおこなわれている交差点での出会頭の事故

緊急自動車は赤信号でも交差点に進入することができます。一方、一般の車両には、交差点を避け、道路の左側(原則)に寄って一時停止する義務があります。

したがって、青信号で交差点に侵入した一般車両と交差道路から赤信号で交差点に進入した緊急車両が出合い頭に衝突した場合、主な責任は一般車両にあると考えられています

この場合にも、緊急車両は他の交通に注意して徐行する義務は負います(道路交通法39条2項後段)。そのため、緊急自動車にも一定の過失があると判断されるケースはあります

別冊判例タイムズにおいて、このような事故の基本の過失割合は、次のようになっています。  

一般車両:緊急自動車=80%:20%

修正要素は、次のように定められています。

  • 見通しがきく交差点 一般車両に10%加算
  • 緊急自動車徐行 一般車両に10%加算
  • 緊急自動車の明らかな先入 一般車両に20%加算
  • 車の先行車停止 一般車両に20%加算
  • 車のその他の著しい過失 一般車両に10%加
  • 車の重過失 一般車両に20%加算
  • 車側幹線道路 緊急車両に10%加算
  • 緊急自動車の著しい過失・重過失 緊急車両に10~20%加算

ここで「明らかな先入」とは、緊急自動車が交差点に進入した際、一般車両がブレーキやハンドル操作をとれば、容易に衝突を回避できたと想定される場合をいいます。

非優先道路から優先道路へ進入した緊急車両の衝突事故

ここまでの説明のとおり、一般車両には、緊急車両を妨害してはいけないという義務があります。 一方で、緊急車両にも

  • 交差道路が優先道路または明らかに広い道路である場合には徐行する義務
  • 交差点では他の車両などに注意し、できる限り安全な速度と方法で通行する義務
  • 一時停止の義務が免除される場合でも他の交通に注意して徐行しなければならない義務

などはあると考えられるので、緊急車両にも一定の過失が認められます。 判例タイムズにおける基本の過失割合は、次のとおりです。

一般車両:緊急自動車=80%:20%

修正要素は、以下のとおりです。

  • 見通しがきく交差点 一般車両に10%加算
  • 緊急自動車徐行 一般車両に10%加算
  • 緊急自動車の明らかな先入 一般車両に20%加算
  • 車の先行車停止 一般車両に20%加算
  • 車のその他の著しい過失 一般車両に10%加算
  • 車の重過失 一般車両に20%加算
  • 緊急自動車の著しい過失・重過失 緊急車両に10~20%加算

緊急車両のその他の事故類型

その他にも緊急車両との事故の形はいろいろなものがありえます。

別冊判例タイムズに記載がない類型については、似た事故に関する裁判例がないか過去の裁判例を調査して確認します

ここでは、停止車両を避けるために、センターラインをオーバーして走行していた消防車が、対向車線を走行してきた一般車両と衝突した事例における裁判所の判断をご紹介します。

上記事例において、福岡地方裁判所久留米支部判決平成25年6月27日は、

一般車両には、消防車に進路を譲らなければならない義務があり、他方、消防車の運転者には、はみ出して通行する必要性が認められ、また、徐行義務違反、前方注視を怠った過失、道路等の状況に応じて他人に危害を及ぼさない速度で走行させていなかった過失は認められない

として、消防車の過失が0と判断しました。

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一般の車両は、強制加入保険である自賠責保険に加えて任意保険にも加入していることがほとんどです。自賠責保険は最低限の保障のためのものです。

交通事故では損害賠償金が高額になることがほとんどです。任意保険に加入していなければ、この高額な損害賠償金を支払うことは困難です。自賠責保険だけでは到底まかなうことができません。

緊急車両も法律で加入を義務付けられていますので自賠責保険には加入しています。ただし、任意保険については必ずしも加入しているとは限りません

所有している車両の台数が多い自治体では、保険料が高額になることから、保険を利用せずに自力で賠償をしたほうが低コストになる場合があるからです。

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まとめ

以上、緊急車両と一般車両の事故では、基本的に一般車両の過失の方が大きくなります。

ですから、緊急車両が近づいていきたときには緊急車両を妨害しないようにすることが大切です。

「交差点では交差点を避けて左側に寄って一時停止をする、それ以外の場所では緊急車両に進路を譲る」ということを徹底し、事故を起こさないよう十分に注意しましょう。

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