交通事故被害者が知っておくべき事故発生から解決までの流れ
交通事故が発生した場合、事故の当事者としては、何をしたらいいかよくわからないという方がほとんどだと思います。そこで本稿では、交通事故発生時の対応から解決(損害の賠償)までの一般的な流れについて説明します。
- 目次
事故発生から解決(損害の賠償)までの全体の流れ
交通事故の解決までの一般的な流れは、事故種別によって下記のように異なります。
1-1.人身事故の場合
①事故発生
②入通院・治療
③後遺障害の認定(後遺障害が発生した場合)
④示談交渉による解決(損害の賠償)
⑤裁判による解決(示談交渉がまとまらない場合)
1-2.物損事故の場合
①事故発生
②修理費などの損害額の確定
③示談交渉による解決(損害の賠償)
④裁判による解決(示談交渉がまとまらない場合)
となります。(図1参照)
図1.交通事故の解決までの一般的な流れ(上:人身事故の場合、下:物損事故の場合)
本稿では、主に人身事故の場合の流れについて以下で具体的に説明していきます。
交通事故発生時の対応
2-1.まずすべきこと
交通事故が発生すると、まずは安全な場所へ移動した後で事故の発生を警察に通報しなければなりません。
警察には以下の情報を落ち着いて説明するようにしましょう。
次に、以下の情報を確認します。
その後、保険会社への連絡も忘れないようにしましょう。
2-2.事故状況はしっかりと警察に伝えましょう
警察の事故状況の調査には積極的に協力するようにしましょう。
人身事故の場合は、実況見分調書(交通事故の状況などを記載した調書)が作成されます。実況見分調書は、後に事故態様や過失割合に争いが生じた際にとても重要な資料になります。
事故の時点では当事者間で事故態様などに争いがなくとも、後に争いが生じるケースがありますので、しっかりと警察に事故状況を説明するようにしてください。
治療・入通院・症状固定の流れと注意点
3-1.必ず病院へ行きましょう
交通事故によりけがをした際には、すぐに病院へ行き治療を受けるようにしましょう。
事故の時点では明らかなけがはなく痛みも特にないという場合であっても、後日痛みが出てくることもあるので、念のため病院へ行ってください。
事故日からかなりの日数が経ってから病院へ行き、けがをしていることが判明したとしても、事故の相手方や保険会社から、そのけがは事故とは関係がないものであるとして治療費の支払いを拒まれることもよくあります。
こうした事態を生じさせないためにも、事故後はすぐに病院へ行くようにしましょう。
3-2.交通事故でも健康保険は使えます
交通事故でケガをして治療費を支払う場合、健康保険を使えるのでしょうか。なかには「交通事故では健康保険は使えない」と言う方もいます。
実際は「交通事故のケガの治療に健康保険を使える」というのが真実です。
しかし、病院などの一部の医療機関を利用する際に健康保険の適用を断られたという話もあるようです。
旧・厚生省は、昭和43年10月12日 保健発第106号「健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険等に対する求償事務の取扱いについて」のなかで、各都道府県に下記の通達を出しています。
「自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変わりがなく、保険給付の対象となるものであるので、この点について誤解のないよう住民、医療機関等に周知を図るとともに、保険者が被保険者に対して十分理解させるように指導されたい」
これは「交通事故で健康保険を利用できる」ということを旧・厚生省が示したものです。
3-3.症状固定とは?
通院は症状固定まで行います。症状固定とは、治療を続けてもそれ以上症状の改善が望めない状況をいいます。
例えば、交通事故によって発症することが多いむちうち症の症状固定までの期間は、事故から3か月~6か月が一般的です。
被害者が交通事故の損害として加害者に治療費を請求することができるのは、原則として症状固定までの治療費ということになっています。
他方で、症状固定後に障害が残っている場合には以下に述べる後遺障害が認められるケースがあります。
後遺障害等級認定
4-1.後遺障害とは?
交通事故でケガをすると、これ以上治療を続けても症状の改善が見込めない状況(症状固定)になりことがあります。このとき、以下の要件を満たすと後遺障害が認定されます。
保険会社からの治療費の支払いは、症状固定までとなっています。ただし、症状固定後に後遺障害が認定されると、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益の支払いを受けることができます。
4-2.後遺障害等級とは
後遺障害は症状の重いものから順に1から14の等級があります。さらに後遺障害1,2級は介護を要するものと介護不要のものにわけられています。
後遺障害等級や逸失利益は、認定される後遺障害等級によって金額が異なります。したがって、適正な損害賠償金を受け取るためには、適切な後遺障害等級の認定を受ける必要があります。
後遺障害についてや逸失利益の計算方法などの詳細は下記の記事も参考にしてください。
- 併せて読むと役立つ記事
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慰謝料・損害賠償2018.05.15
交通事故で負傷し、後遺障害を負ったり、死亡したりすれば逸失利益が損害として認められます。逸失利益とは…
4-3.適切な後遺障害等級認定を受けるためには
後遺障害等級認定を受けるための手続としては、
①事前に医師に検査をしてもらう
②後遺障害診断書を記載してもらう
③後遺障害診断書を自賠責保険会社に提出する
という流れになります。
そして、認定された後遺障害等級に不服がある場合は、異議申し立てをすることができます。
医師に後遺障害診断書を作成してもらう際には、自覚症状をしっかり伝え、記載してもらうことが重要です。また、後遺障害と診断される結果が出る可能性のある検査については十分に行ってもらうことも重要です。
示談・裁判による解決方法について
5-1.示談のタイミングは?
示談交渉を開始するタイミングは全ての損害額が確定してからになります。
人身事故の場合、後遺障害がなければ症状固定後に、後遺障害が生じていれば後遺障害等級認定後に全ての損害が確定しますので損害額を算出し、示談交渉を開始することになります。
死亡事故の場合は常識的には四十九日が過ぎてから行うべきです。
四十九日の法要の前に示談を持ちかけると、被害者遺族が不快感を覚える可能性があります。その結果、示談に応じてくれなくなりかねません。死亡事故の際は示談のタイミングに注意しましょう。
5-2.項目ごとに損害額を算出する
交通事故による損害の項目は、人身損害と物的損害に大別されます。人身損害には、さらに以下のような項目に分類されます。
また、物的損害には以下のような項目に分類されます。
これらの損害を項目ごとに算出し、損害額の総額を算出し、相手方に請求しましょう。
5-3.示談の相手方は?
示談とは、当事者同士の話し合いで問題解決をおこなうものです。交通事故の場合は基本的には交通事故の被害者と加害者で話し合うことになります。
ただし、加害者が任意保険に加入している場合は、加害者の加入する保険会社が示談を代行します。
被害者も任意保険に加入している場合、被害者にも過失がある交通事故の場合に限って、被害者の加入する保険会社が示談を代行できます。
しかし、追突事故のように、被害者に過失がない事故では、被害者の加入する保険会社が示談を代行できません。
実は、弁護士法では「弁護士以外の者が報酬を得る目的で法律事務をおこなうこと」を禁止しています。
被害者に過失がある事故の場合、保険会社は被害者(契約者)の代わりに損害賠償金を加害者に支払う義務があります。
しかし、追突事故のように被害者に過失がない事故では、被害者側の保険会社は損害賠償を加害者に支払う必要がありません。したがって、被害者に過失がない事故の場合、被害者側の保険会社は示談を代行できないのです。
5-4.損害の算定方法に関する3つの基準とは?
示談をおこなうと、示談の相手から損害賠償金を提示してきます。このとき、提示された金額を鵜呑みにしてはいけません。
実は、加害者の保険会社から提示される損害賠償金額は妥当な金額ではないことがあるのです。では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
損害賠償金額には以下の3つの算定基準があります。
自賠責保険基準
自賠責保険とは、自動二輪車を含むすべての自動車を運転する際、加入を義務付けられている強制保険です。自賠責保険は交通事故で発生した人身事故の被害者を救済することを目的としています。自賠責保険は被害者に対する最低限の補償をするための保険ですので、自賠責保険基準は3つの基準のなかで最も低額な基準になります。
任意保険基準
任意保険は、自賠責保険でカバーできない損害を補填するために任意で加入する自動車保険です。任意保険基準は保険会社によって算定基準が異なります。任意保険基準は公開されていませんが、一般的に自賠責保険基準と後述の裁判基準の中間の金額といわれています。
裁判基準
裁判基準は、交通事故の裁判で損害賠償請求をおこなう際に認められる基準です。したがって裁判基準は3つの基準のなかで最も高額な金額といわれています。 裁判基準は、弁護士に損害賠償請求を依頼した際に用いられる基準ですので、別名「弁護士基準」ともいいます。
加害者側の保険会社と示談交渉すると、保険会社は任意保険基準で損害賠償金額を提示します。このとき提示される金額は、場合によっては自賠責保険基準と変わらない金額であることもあります。このとき、交通事故に強い弁護士に依頼すれば、裁判基準の損害賠償金額で示談交渉ができます。
このように、加害者側の保険会社が提示する金額は妥当な金額より低額な場合があります。提示された内容を鵜呑みにせず、弁護士に相談してみることが大切です。
5-5.示談交渉がまとまらなければ裁判!
示談交渉がまとまらない場合は、裁判をすることになります(裁判の前に、交通事故紛争処理センターなどの裁判外での紛争解決機関での話し合いもあります。詳しくは以下の記事を参考にしてください)。
- 併せて読むと役立つ記事
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基礎知識2018.06.05
交通事故に遭うと、被害者が相手方の保険会社と示談交渉をおこないますが、示談交渉がまとまらなかった場合には…
裁判をするためには、まず訴状を作成し裁判所に提出します。そして指定された裁判期日に出席します。
裁判期日は月に1回程度の間隔で行われ、双方の主張を書面と口頭で主張します。その際には証拠を提出します。
裁判は交通事故の当事者本人が提起することができますが、手続きは複雑で専門的です。そのため弁護士に依頼することをおすすめします。
交通事故当時者本人が裁判を起こす際の詳しい流れは以下の記事を参考にしてください。
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弁護士に相談するタイミング
弁護士に相談するタイミングは、早ければ早いほど良いです。
示談交渉や裁判を有利に進めるためには、前提として事故に有利な証拠や法的な根拠が必要になります。とはいえ、どのような証拠が必要なのかは一般の人にはわかりませんし、法的な知識も十分ではないことが多いでしょう。
たとえ事故時点では争いがないとしても、必要な証拠の収集は事故直後からしておいた方がよいでしょう。
事故直後の早い段階で専門家である弁護士に相談し、アドバイスをもらう、または弁護士に示談交渉や裁判の代理を依頼しておけば、示談交渉や裁判を有利に進めることが可能です。
逆に弁護士への相談が遅れてしまうと、有利な証拠を収集することができなかったり、早期に弁護士に相談していた場合よりも低い金額での示談を余儀なくされたりすることがあるので、なるべく早く相談することをおすすめします。
ご自身が加入している自動車保険で弁護士費用特約を付けている場合は、弁護士費用の負担なく弁護士に相談・依頼することができ、大変便利です。
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