飲酒運転で課せられる罰則の重さと損害賠償への影響とは

飲酒運転とは、お酒を飲んで自動車を運転する行為をいいます。ご存じの通り、お酒を飲んで自動車を運転することは極めて危険な行為です。しかし、飲酒運転をしたことによって、交通事故にどのような影響があり、どのような刑罰が科されるのかについて明確に認識している方は少ないのではないでしょうか。
この記事では、実際に飲酒運転をして交通事故を起こした場合の交通事故処理への影響(特に損害賠償請求に対する影響)、及び飲酒運転をした人にはどのような罰則があるのかについて説明します。
「ちょっとくらいなら大丈夫」と考える人も、危険意識を改めてもって頂き、この世から飲酒運転をなくしましょう。
- 目次
飲酒運転の罪の概要
まず「飲酒運転といえば刑罰」というイメージをお持ちの方も多いかと思いますので、ここでは、各種罰則についてご説明いたします。
酒酔い運転と酒気帯び運転の違いとは
飲酒運転には2つの種類があります。それは酒酔い運転と酒気帯び運転です。飲酒運転に対する罰則は、酒酔い運転と酒気帯び運転で異なります。
では、これらの違いはどこにあるのでしょうか。
酒酔い運転とは、飲酒量や体内にあるアルコールの量にかかわらず、まっすぐ歩けないなど酔った状態で自動車を運転することをいいます。
酒気帯び運転とは、酔った状態ではなくとも、一定基準値以上のアルコールが体内にある状態で自動車を運転することをいいます。
要するに、飲酒量にかかわらず酔った状態で運転をしたら「酒酔い運転」に、酔っていなくてもある程度体の中にアルコールが入った状態で運転をしたら「酒気帯び運転」になるということです。
飲酒運転による刑事罰
飲酒運転に対する刑事罰は、次の通りです。
実際に飲酒運転をしていた行為
✔ 酒酔い運転 :5年以下の懲役又は100万円以下の罰金
✔ 酒気帯び運転:3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
飲酒運転の可能性のある者に車両を提供した行為
✔ 酒酔い運転 :5年以下の懲役又は100万円以下の罰金
✔ 酒気帯び運転:3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
飲酒運転をする可能性がある者に酒類提供した者
✔ 酒酔い運転 :3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
✔ 酒気帯び運転:2年以下の懲役又は30万円以下の罰金
運転者が飲酒運転をすることを知りながら同乗した者
✔ 酒酔い運転 :3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
✔ 酒気帯び運転:2年以下の懲役又は30万円以下の罰金
飲酒運転による行政罰
続いて、飲酒運転に対する行政罰は次の通りです。
✔ 酒酔い運転 :35点(免許取消)
✔ 酒気帯び運転(呼気1L中のアルコール濃度0.25mg以上):25点(免許停止)
✔ 酒気帯び運転(呼気1L中のアルコール濃度0.15mg以上0.25mg未満):13点(免許停止)
飲酒運転により人を死傷させた場合の刑事罰
これらに加え、飲酒運転をしたことによって人を死傷させた場合には、さらに重い刑罰が科せられます。
✔ 人を負傷させた場合:15年以下の懲役
✔ 人を死亡させた場合:1年以上20年以下の懲役
飲酒運転には重い罰則が課せられる
このように、飲酒運転をすると、一発で免許が停止又は取り消されたうえに刑務所に行かなければならない可能性もあります。
さらに、飲酒運転の関係者も、刑務所に行かなければならなくなる可能性もあり、極めて重い罰則が科せられております。
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飲酒運転と過失
続いて話を損害賠償との関係に移しましょう。飲酒運転が原因で交通事故を起こした場合、損害賠償請求において過失が認められやすくなるのでしょうか。
一般論を申しますと、過失は認められやすくなります。
通常、飲酒していない場合の過失は、前方不注視や信号無視などが一般的ですが、これらは事実関係に争いがあると、立証することはなかなか難しいものです。
他方、飲酒運転をしていると、警察が調査をしていることが多いため、過失を認めやすくなるのです。
また、過失相殺をする場合の過失割合も、飲酒運転をしていない場合に比べて、酒気帯び運転の場合には「著しい過失」にあたり10%程度、酒酔い運転の場合には「重過失」に当たり20%程度まで上がる可能性があります。
このように、飲酒運転は過失の認定にも影響を及ぼします。
飲酒運転と保険金
次に、飲酒運転をした場合でも自身の加入する任意保険会社から保険金はおりるのでしょうか。
この問題は、個々の保険会社との契約内容によって結論が分かれるところですが、多くの保険会社では、飲酒運転をしていた事実は保険金の免責事由に当たります。
それゆえに、飲酒運転者の加入する任意保険を利用できません。
つまり、飲酒運転によって、自身がけがをしたり、自身の自動車を修理する必要が生じても、自身の保険を使うことができないため、いわゆる「自腹」でこれらの損害を賄わなければなりません。
もっとも、飲酒運転により第三者に損害を生じさせた場合には、例外的に保険金は支払われることが多いです。これは次のような理由に基づきます。
飲酒運転をしていて自分に損害が生じた場合には、飲酒運転をした人が悪いので、保険金が支払われないとするのも合理的です。
しかしながら、飲酒運転をしていたことによって、被害者が危害を加えられた場合にも任意保険会社から保険金が支払われないとするのは、何も悪いことをしていない被害者にとって酷です。
このような理由から、被害者には保険金が支払われるようにしたのです。
飲酒運転の民事事件への影響
続いて飲酒運転をした場合の民事事件への影響を見てみましょう。
加害者側への影響
まず、飲酒運転をしていた人は、飲酒運転をしていたことを理由に相手方に対して支払うべき賠償額が増えることはあるのでしょうか。
結論から言うと、過失割合が増えるケースを除くと、飲酒運転をしていた事実そのものから賠償額が増えることはありません。
そもそも、交通事故を理由とする損害賠償請求における「損害」とは、交通事故がなければ被害者がおかれているであろう財産状態と、交通事故があったために被害者がおかれている財産状態との差額をいいます。
言い換えると、交通事故によって失ったり、得られなくなった金額が「損害」に当たるのです。
そして、飲酒運転をしていた事実そのものから、被害者が経済的に何かを失ったり、得られなくなることは考えにくいです(あくまで交通事故を起こしたことそれ自体から損害が生じるのであって、飲酒運転をしていたことそれ自体から生じるものではないのです)。
したがって、飲酒運転をしていた事実それ自体から、賠償額が増えることはありません。
ただし、先にもご説明申し上げた通り、過失相殺をする場合の過失割合も、飲酒運転をしていない場合に比べて、酒気帯び運転の場合には「著しい過失」にあたり10%程度、酒酔い運転の場合には「重過失」に当たり20%程度まで上がる可能性があります。
そのため、被害者にも過失があり、過失相殺が問題になる場面においては、飲酒運転をしていなかったときに比べて、賠償額が増額することはあります。
次に、飲酒運転の交通事故の処理の依頼を弁護士が受けたがらないことはあるでしょうか。
結論から言うと、原則としてありませんが、飲酒運転をしていたことに基づくデメリットを総合的に判断して依頼を受けるかどうかを決めることになります。
損害賠償請求において、飲酒運転をしていた事実は、あくまで「過失」の判断に影響を与えるだけなので、法律上他の処理については通常の交通事故と同じだからです。
もっとも、例外的に通常の交通事故の加害者と異なる点が2つあります。1つは刑事手続への関与です。先にもご説明申し上げた通り、飲酒運転をすると重い刑罰が科されます。
そのため、飲酒運転をしていた者は、警察や検察に取調べに応じ、結果的に起訴されれば、弁護人を付ける必要もありうるのです。
もう1つは、弁護士費用特約を使うことができない可能性があることです。
多くの保険会社では、飲酒運転をしていた事実は保険金の免責事由に当たります。
そのため、自身の加入する任意保険会社を利用することができなくなってしまうのです。
弁護士費用特約についても同様であるため、飲酒運転をしていた者は、「自腹」で弁護士費用を賄う必要があるのです。
飲酒運転をしていた者から事件処理の依頼を受けた弁護士は、これらの点にも留意して受任を決定します。
歯切れの悪い答えですが、これらの例外があるため、「加害者が弁護士費用を支払うことができるのか」、「刑事手続への関与はどうあるべきか」などの諸点を考慮する必要があるのです。
被害者側への影響
では、被害者側はどうでしょうか。加害者が飲酒運転かそうでないかで対応が変わるのでしょうか。
結論を申しますと、ほとんど変わりません。
変わることがあるとすれば、過失の認定に対して強気の交渉が可能になる点や、刑事手続への関与の仕方を被害者に対してアドバイスする点のみであって、その他の手続はほぼ同じです。
ですので、加害者が飲酒運転であった事実から、弁護士に依頼すべきかどうかの必要性は全く変わらないのです。
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飲酒運転による過去事例
ここで、飲酒運転をしていたケースで岡山地方裁判所で平成23年3月2日に実際にくだされた判決を簡単にご紹介しましょう。
事案は、歩行中のAの後ろからBが酒気帯び運転する普通乗用自動車が衝突し、Aが傷害を負い、後遺障害(併合11級)が残るなどして損害を受けた、というものです。
岡山地方裁判所は、被告に8227万3894円の損害を認めました(ただし、うち779万6530円は支払済みであったため、判決主文は7447万7364円です)。
このように、飲酒運転をすると、刑罰や行政罰のみならず多額の損害賠償責任も負うことになるのです。
まとめ
以上、飲酒運転をしたときに交通事故を起こした場合について、民事・刑事・行政などのさまざまな観点から分析を加えました。
飲酒運転による交通事故の加害者も被害者も、それぞれが法的に複雑な問題を抱えることになるので、まずは弁護士に相談をしましょう。
なお、最後に、飲酒運転に対する国家の施策についてみておきましょう。
以前は、現在ほどは重くなかったのですが、平成13年11月に危険運転致死傷罪が制定されたのを皮切りに、平成21年5月に自動車運転過失致死傷罪の制定、同年6月に道交法が改正されて行政罰の厳罰化、平成25年12月に「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」の制定など、飲酒運転に対する厳罰化がより一層すすんでおり、国家をあげて飲酒運転の撲滅に取り組んでおります。
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