交通事故で当て逃げの被害に!損しないために知っておくべき対処法

少し前に、芸能人の当て逃げが話題になりました。その事件は正確には「ひき逃げ」に該当するのですが、「当て逃げ」と「ひき逃げ」とはどう違うのでしょうか?そして、当て逃げされた場合には、どのように対処すればいいのでしょうか?さらに、当て逃げしてしまった人が取るべき行動についても解説します。
- 目次
当て逃げに遭った場合の対処法
当て逃げとは?
「当て逃げ」という法律用語はありません。
「当て逃げ」とは、物的損害のみが生じた交通事故が発生したときに、警察への報告義務の履行を怠って、事故現場から立ち去った場合のことを言います。
これに対して、交通事故で人身損害が発生した事故現場から立ち去った場合を「ひき逃げ」と言います。
話題になった芸能人の事件では、相手の自動車の運転手にむち打ち症状が出たので、人損事故となってしまい、「当て逃げ」ではなく、「ひき逃げ」となってしまいました。
なお、「当て逃げ」には、乗車中の自動車同士の接触だけではなく、コインパーキングに駐車中に当てられていた場合なども含まれます。
さらに、相手の自動車が、自分の家の壁にぶつけて逃げた場合やペットが被害にあった場合など、ぶつけられた物が自動車ではない場合でも「当て逃げ」と呼びます。
なお、この記事では、主に、「自動車が自動車にぶつかって逃げた」場合を想定して解説しています。
警察に連絡する
「当て逃げ」は、道路交通法違反であり、警察の犯罪捜査の対象ですから、警察に連絡しましょう。
事故の状況や相手の自動車の情報なども記憶が鮮明なうちに、警察に伝える必要があります。捜査には協力して、加害者を見つけてもらいましょう。
さらに、後述するように、車両保険を利用するときに、警察に届け出をしていることが必要な場合もあります。
したがって、通報は、加害者が見つからなかったときの保険金請求のためでもあります。
自分の加入する保険会社に連絡する
最終的に加害者が見つからなかった場合、最終的に自分の加入している保険を利用することになる場合もあります。そこで、自分の保険会社にも報告しておきましょう。
病院に行く
軽い接触で、当て逃げだと思っていたら、後日になって吐き気やめまいなどむち打ちの症状が出ることもあります。そのような症状が出たら、すぐに病院に行きましょう。
その症状が事故によるものであれば、「当て逃げ」ではなく、「ひき逃げ」となりますので、治療費を填補してもらえる公的制度もあります。
むち打ちは、交通事故との因果関係が争われやすいので、症状が出たらすぐに病院に行っておく必要があります。
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当て逃げの場合の損害賠償請求
加害者が判明した場合
警察は、死亡事故や重傷事故など重大事故の方を重点的に捜査しますので、けが人もいない「当て逃げ」では、加害者が見つかりにくいのが現状です。
もっとも、最近では、防犯カメラが多く設置されていますし、ドライブレコーダーを搭載している自動車も多くなっています。
また、被害者が相手の自動車のナンバーなどを覚えている場合もあります。このような場合であれば、警察の簡単な捜査によって、加害者が見つかることもあります。
加害者が見つかった場合には、通常の交通事故の場合と同じように、加害者に対して、損害賠償請求をすることになります。
物的損害だけの交渉であっても、修理費が適正かどうかや、本当にその当て逃げで発生した損害か(因果関係)などが争われることもあります。
損害賠償の交渉は弁護士に相談した方がよいでしょう。
損害賠償の範囲は?
物損事故の場合の損害賠償の項目には、修理費や代車使用料、休車損害、レッカー代、廃車料などがあります。
自動車の修理費は賠償してもらえますが、自動車の修理費が、自動車の時価を上回る場合には、「全損」となり、自動車の時価が損害賠償の額の上限となります。
また、被害車両が、営業車であれば、その自動車を使えなかったことによって、被った営業上の損害(休車損害)が損害賠償として認められることもあります。
ただし、代車使用料が認められた場合は、休車損害は認められません。
慰謝料は請求できる?
逃げるというのは悪質ですから、当て逃げされたということについて、慰謝料を求めたくなると思います。
しかし、自動車のような物が壊されたという場合には、その物の損害を填補すれば足りるとされています。
なぜなら、物が壊されたというのと、体に傷を負ったというのとでは、「心の痛み」は全く違うからです。
「物が壊された」のみでは慰謝料はほとんど認められません。これは、当て逃げの場合であっても同様です。
加害者が判明しなかった場合
ひき逃げの場合には、政府保障事業制度のような公的な制度もあるのですが、物にしか損害がない当て逃げでは、あまり利用できる制度はありません。
自分で保険をかけて備えておくしかないと言えます。
自分が加入している自動車保険のうち、当て逃げの場合に利用できるのは車両保険です。
車両保険とは、交通事故や自然災害などの偶然の事故によって被保険自動車に損害を受けた場合に保険金が支払われる自動車保険のことです。
例えば、自損事故を起こした、自動車に落書きされた、自動車が盗まれた、当て逃げされたというような場合に使えます。
支払われる保険金の範囲や条件は、自分が契約した保険契約や約款に定められていますので、一概には言えません。
さらに、車両保険を利用する場合には、次のような注意点があります。
警察への届け出が必要
交通事故の発生を警察にきちんと届け出ていないと、保険金を受け取ることができないことが多いです。本当に当て逃げが発生したのかどうかの証明ができないからです。
等級のダウン
当て逃げによって保険金を受け取ると、3等級ダウンになります。つまり、翌年から車両保険の保険料が高くなるということです。
そのため、受けとる保険金の額と翌年から払う保険料を比べて、どちらが得なのかをよく考える必要があります。
また、保険金を受け取った後に加害者が見つかっても、保険金を返すことはできません。
保険金を払ったあなたの保険会社が、加害者に対して損害賠償の請求(求償権の行使)ができるだけです。もちろん、等級が元にもどることもありません。
とりあえず、保険金を受け取って、翌年からは、保険料の安いネット保険に加入して保険料を抑えるという方法もあるでしょう。
当て逃げをしてしまった人はどうすればいいのか?
物損事故には刑事罰はない
交通事故とは、「故意」ではなく、「過失」によって、引き起こされるものです。過失によって人にケガをさせたり、人を死亡させてしまったりすると、刑事罰があります。
しかし、過失によって、物を壊したにすぎない場合には原則として、刑事罰はありません(建造物にぶつけた場合は別です)。
そのため、通常の物損事故は、刑事罰の対象ではありません。
当て逃げには罰則がある
しかし、当て逃げとなると話は違ってきます。
当て逃げは、道路交通法上の義務に違反して逃げることであり、道路交通法違反には下記のような刑事罰があるからです。
人の死傷を伴わない交通事故の場合の緊急措置義務(道路交通法第72条第1項前段)
違反による罰則(道路交通法第117条の5)
1年以下の懲役又は10万円以下の罰金
警察への報告義務(道路交通法第72条第1項後段)
違反による罰則(道路交通法第119条第1項第10号)
3月以下の懲役又は5万円以下の罰金
現場に留まる義務(道路交通法第72条第2項)
違反による罰則(道路交通法第120条11号の2)
5万円以下の罰金
※これらは「逃げる」という一つの行為で、たくさんの罪名に該当している状態です。このような場合には、最も重い罪である「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金」が適用されます。
人的損害が発生している場合も
自分は軽く当たっただけと感じていても、相手の身体に影響を与えている可能性があります。
相手がむち打ち症などを発症した場合には、人損事故になってしまいますから、運転過失致傷罪にも該当してしまいます。
自首する
では、当て逃げしてしまった人がどうすればいいかというと、自首するしかありません。
「犯罪事実は発覚しているけれど、犯人が誰であるかが発覚していない」段階で警察に出頭すれば、自首が成立しますので、警察が、犯人を割り出す前に出頭する必要があります(最高裁判所判決平成24年5月14日判決)。
警察がすでに、犯人を特定していた後では、法的な意味での「自首」は、成立しません。
それでも、警察に「自ら出頭した」ことは、起訴・不起訴を決めたり、量刑を決めたりする上で、「よい情状」として考慮してもらえる可能性が高くなります。
前科前歴がある場合は別ですが、通常は、当て逃げは罰金刑になることが多いです。また、犯罪としては軽い部類なので、逮捕まではされず、在宅捜査になることが多いでしょう。
警察に見つかるかもしれないという不安を抱えて生活するよりは、自首した方が心が軽くなるはずです。
自首したらどうなるのかという不安がある場合には、一度、弁護士に相談に行った方がいいでしょう。弁護士が自首に付き添ってくれる場合もあります。
また、弁護士に頼んで、被害者と早急に示談してもらうべき場合もあります。
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交通事故を起こすと、場合によっては警察に逮捕されてしまったり、検察官から起訴されて刑事事件になってしまうことが…
まとめ
自動車は大事な財産ですから、当て逃げをされたらショックですし、修理費用もそれなりにかかります。それでも加害者が見つからなければ、救済制度がほとんどないのが現状です。
もしもの場合に備えて、車両保険は見直しておきましょう。
また、当て逃げにあってしまった場合、加害者を見つけてもらうための警察とのやりとりや保険金を請求するべきか否か、加害者が見つかった場合の示談交渉などは、自己判断せずに弁護士に相談してみた方がよいでしょう。
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