自動ブレーキが事故を回避できない?自動ブレーキ搭載車の課題とは。

自動車の進化のスピードには驚かされるばかりです。燃費がよくなるだけでなく、車内も広くなり、より安全になってきています。さらに自動ブレーキも驚きの技術のひとつでしょう。
運転している自動車の前に障害物が現れたら自動車が勝手にブレーキをかけてくれるため事故を回避できます。しかし自動ブレーキといえども人がつくったものです。完璧ではありません。
自動車メーカーも、自動ブレーキは「安全運転を前提とした装置で、これに頼った運転は行わないでください」と呼び掛けているくらいです。
実際、自動ブレーキ搭載車が死亡事故を起こした事例も報告されています。油断も過信も禁物です。
- 目次
自動ブレーキとは
ひと口に自動ブレーキといっても機能にはいくつか種類があります。
緊急ブレーキ
緊急ブレーキは一般的によく知られている機能でないでしょうか。
自動車の前部にカメラが設置されていて歩行者や車両を検知します。衝突の可能性が高まるとまずは運転席のメータ内に警告が表示してブザーを鳴らします。
それでもドライバーが反応しないと自動的に強力なブレーキがかかります。
踏み間違いサポートブレーキ
踏み間違いサポートブレーキは、ブレーキを踏んだつもりで間違ってアクセルを踏んでしまったときに起動します。それだけではありません。
例えば、駐車場でバックで停めようとしているときに、進行方向に壁があるのにブレーキが遅れたり、アクセルを強く踏みすぎたりしてしまうと自動的にブレーキがかかります。
さらに最新の踏み間違いサポートブレーキは、コンビニのように全面ガラス張りでも障害物であると認識できるようになりました。
右折支援ブレーキ
右折支援ブレーキは、交差点を曲がるときの安全走行を支援してくれます。これもかなりの優れものです。
自動車を交差点中央付近まで進めて右折の態勢に入ったときに、前方からこちらに向かってくる対向車までの距離が微妙だった場合、「行くか待つか」で迷うと思います。
この右折支援ブレーキを搭載していると、ドライバーが「行ける」と判断してアクセルを踏んでも自動車が「危険」と判断すればブレーキがかかるのです。
自動ブレーキに義務化の流れがある
自動ブレーキは着実に普及しています。日刊自動車新聞によれば、2017年に自動ブレーキを搭載した新車の割合が9割以上になった日本車メーカーがあるそうです。
国内の日本車メーカーの平均でも2017年に6割まで高まりました。つまり日本製の新車は自動ブレーキ付きのほうが多いということです。
保険会社からも、自動ブレーキ車の所有者の保険料を割り引く任意保険が販売されました。事故リスクが小さいため保険料を安くできるのです。
国も動いています。国土交通省は2018年4月に、自動ブレーキの性能基準を新たに設けました。その内容は次のとおりです。
国土交通省は自動車メーカーに対して、暗に「最低この性能をクリアするように」と指示しているのです。
というのも政府は2020年までに新車の9割が自動ブレーキ搭載車になることを目標に掲げています。
そのため自動車業界では、2018年から数年以内に自動ブレーキの搭載が義務化されるのではないかとささやかれています。
参考:日本自動車会議所HP「自動ブレーキ普及加速、昨年の装着率9割前後」
自動ブレーキには課題もある
自動ブレーキがまだ完全ではありません。国土交通省は2018年7月に初めて、自動ブレーキ搭載車による事故を集計しました。
それによると同省には2017年の1年間に、ユーザーやメーカーから自動ブレーキに関するトラブルの報告が340件寄せられました。
そのうち自動ブレーキが作動しなかったり自動ブレーキが誤作動したために起きた事故は82件にのぼりました。歩行者が自動ブレーキ搭載車にはねられて死亡した事故もありました。
さらにJAF(日本自動車連盟)は、自動ブレーキが豪雨時に正常に作動しないことがあることを公表しました。
JAFは1時間に80ミリというゲリラ豪雨並みの雨を試験コースに再現して、自動ブレーキ搭載車で走らせました。
自動ブレーキ搭載車が時速30kmで障害物に近付いたときは自動ブレーキが作動して手前で停止できましたが、時速40kmでは衝突してしまいました。自動ブレーキが起動しなかったのです。
雨が自動ブレーキのセンサーに悪影響をおよぼし、機能停止を引き起こしたとみられています。
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国内電機大手も開発に乗り出す
自動車メーカーも自動ブレーキにはまだ開発の余地があることを理解しており、開発の手を緩めていません。自動ブレーキは自動車の装置なので、自動車メーカーや部品メーカーが開発しています。
しかし物体を正しく認識する技術は電機メーカーも得意です。そこでソニーや東芝といった電機メーカーも自動ブレーキ開発に参入しているのです。
自動車と電機という、日本が得意とする2つの業界がタッグを組んで生み出したのが、夜間の歩行者に対応した自動ブレーキです。
夜間の歩行者は人間でも見つけにくく、それは従来型の自動ブレーキのカメラも同じです。
しかも夜間に走行する自動車はヘッドライトをロービームに(やや下向きに照射)していることが多くなります。そうなると自動ブレーキのカメラは、最初の一瞬は歩行者の下半身しか認識できません。
自動ブレーキはコンピュータが「人のかたち」を認識して作動するので、下半身だけの画像では「人が現れた」と判断できませんでした。
自動車が歩行者に近付けばロービームのライトが全身を照らしますが、そこから自動ブレーキをかけたのでは間に合いません。
また、街灯や小売店の明かりがある場合、それらの光が歩行者に当たり、やはりカメラが認識しづらくなります。さらに対向車のヘッドライトの光がカメラに照射されても感度が鈍ってしまいます。
このように従来の自動ブレーキは夜が苦手なのです。そこで自動車メーカーと部品メーカー、電機メーカーは、ハードとソフトの両面から改良に取りかかりました。
夜間でも昼間と同じぐらいしっかりと障害物を認識できるよう、カメラのレンズ部分を改良し、より多くの光を取り込めるようにしました。また障害物を感知するセンサーの性能も向上させました。
さらにセンサーがとらえた画像を電子データに処理する「チップ」と呼ばれる電子部品も処理速度を上げた高性能版に取り替えました。
その結果、暗い物体でも「見える」ようになったのです。
新しいセンサーを開発したのがソニーで新しい画像処理チップを開発したのが東芝です。 さらにソフトについては下半身だけで「人である」と認識できるようにしました。
自動車と歩行者の死亡事故率は夜間のほうが多い
夜間の自動ブレーキ性能の向上にオールジャパンで挑んだのは夜間のほうが歩行者が危険にさらされているからです。
自動車が歩行者をひいて死なせてしまう死亡事故率は昼間より夜間のほうが多いのです。
警視庁が2012~2016年の5年分のデータを調べたところ、昼間の自動車対歩行者の死亡事故は昼間の死亡事故全体の21%で、車両単独死亡事故の27%に次ぐ2番目でした。
一方、夜間の自動車対歩行者の死亡事故の割合は48%で、2番目の車両単独死亡事故の20%をはるかに上回っていました。
自動ブレーキの夜間性能を向上させることは喫緊の課題といえるのです。
参考:日本経済新聞 電子版 会員限定記事「自動ブレーキ、夜間歩行者で競う トヨタを各社追う」
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まとめ
世界の自動車業界の最大の関心事は自動運転車だといわれています。すでに複数社が自動運転車を公道で走らせて実証実験を行っています。
ただ自動運転車が完全解禁になるにはまだまだ月日がかかりそうです。
自動運転車が歩行者をひいて死亡させてしまうと「人ではなく自動車が人間を殺した」ことになり、それはとても大きな悲劇になります。
自動運転車は、人間が運転する自動車より安全でなければならないのです。
自動運転車の安全には、自動ブレーキの性能向上が不可欠です。自動車の性能は「走る・曲がる・止まる」の3つでわかるといわれています。
どれも安全運転に重要な要素ですが、そのなかでも人命に最も深くかかわるのは「止まる」機能だからです。
自動ブレーキは完全に事故を防げるものではありません。自動ブレーキ搭載車を運転する人も、システムを過信せず、安全運転を心がけることが大切です。
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