交通遺児への支援とは?交通事故で親を亡くした子どもが夢をあきらめないために。

基礎知識
交通遺児への支援とは?交通事故で親を亡くした子どもが夢をあきらめないために。

交通事故で親を亡くした子どもは、大きな精神的ショックを受けます。交通事故後はさまざまな対応をしなければなりません。

しかし、子どもがいる家庭では子どもの心のケアを優先する必要があります。そして交通遺児たちには生活費や学費という大きな壁も立ちはだかります。こうした交通遺児たちの苦難を少しでも緩和する制度があります。

この記事では、交通遺児を支援する運営団体や支援制度の利用方法、具体的な支援内容などを詳しく紹介します。 ここで紹介する支援制度を活用し、学業や進学をあきらめないでください。

目次
  1. 交通遺児が直面する現実とは
  2. 交通遺児を支える諸制度
    1. 交通遺児等貸付
    2. 交通遺児育成基金制度
    3. 交通遺児育成基金には4つの支援給付金(事業)がある
    4. 交通遺児育英会
    5. あしなが育英会は「交通遺児」対象外
  3. まとめ

交通遺児が直面する現実とは

交通遺児とは、交通事故によって親を失ったり、交通事故で重い障害を負った親の子どものことをいいます。交通遺児には、父親のみ、または母親のみを失うケースも含みます。

特に交通遺児が経済的な困窮に陥りやすいのは、一家の大黒柱である父親が亡くなったり後遺障害を負った場合です

交通遺児育英会が2015年におこなった調査によると、交通遺児世帯の4割は預貯金が100万円に満たず、預貯金ゼロ世帯は24%におよびました。

調査対象となった交通遺児世帯のうち、父親が亡くなっていたのは85%でした。成人男性のほうが自動車を運転する機会が多いため、父親が交通事故の被害に遭う確率が高くなってしまうのです。

父親を事故で亡くし母子家庭になった場合、専業主婦だった母親がすぐに正社員として働くことは難しく、どうしても収入が低い非正規雇用で働くことが多くなります。

これも交通遺児世帯の経済状況が逼迫する原因になっています。

交通事故の加害者が自賠責保険にしか加入しておらず、任意保険に未加入だった場合、遺族への賠償金が十分でないことも想定されます。

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交通遺児を支える諸制度

交通遺児を支える諸制度

生徒や学生を含む交通遺児を経済的に支援する制度は複数あります。それぞれの制度で利用できる年齢や支援目的が異なります。 以下に利用条件や支援内容を紹介します。

交通遺児等貸付

独立行政法人自動車事故対策機構は、自動車事故によって死亡または重度の後遺症が残った親の子どもの育成のために、交通遺児等貸付という制度を設けています

重度の後遺症とは、障害等級1~3級に相当する後遺障害のことです。

中学卒業までの交通遺児が対象、月1万円または2万円

交通遺児等貸付の対象となるのは、中学卒業までの子どもです。

貸付金額は、まず一時金として15万5千円が送金されます。以後、月額1万円または2万円と小学入学時と中学入学時にそれぞれ4万4千円が送金されます。月額は選択できます。

また入学時の貸付金は希望する場合のみとなっています。返還金には利子がつきません

無利子だが20年以内に返還が必要

返還方法は、貸付が終了してから6カ月または1年後に、月賦または半年賦でおこないます。原則、20年以内に返還することになります。

中学卒業後に高校や大学に進学する場合は、それぞれ学校を卒業するまで返還の開始を猶予されます。

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交通遺児育成基金制度

公益財団法人交通遺児等育成基金は、育成基金事業を実施しています。対象となるのは自動車事故で亡くなった親の16歳未満の子どもです。

この制度は、交通遺児が損害保険会社などから受け取った損害賠償金を同基金に拠出金として支払います。

同基金は受け取った拠出金を安定的に運用し、子どもが満19歳に達するまで育成給付金として交通遺児に支給する仕組みです。

交通遺児から損害賠償金を拠出してもらい増額した額を育成給付金として交通遺児に給付する仕組みとは

交通遺児等育成基金は、交通遺児から受け取る拠出金に援助金を加えて公社債など安全な資産運用をおこないます。

さらに国の補助金や民間からの負担金などを加えて、交通遺児に渡す育成給付金の資金をつくります。

拠出金

拠出金(交通遺児が同基金に支払う金額)は、交通遺児の年齢によって異なり、以下のとおりです。

交通遺児の年齢と拠出金額

育成給付金

交通遺児は育成給付金として毎月3万2千~7万円を受け取ることになります。 育成給付金の総額(交通遺児が最終的に受け取る全額)は、加入時の年齢によって異なり、以下のとおりです。

加入時の年齢と育成給付金の金額

12歳の人なら79万円増額

例えば12歳~12歳6ヶ月未満の子どもは加入時に455万円を拠出します。しかし、最終的に総額534万円(加入時年齢12歳)を受け取れるため、79万円増えることになります。

交通遺児育成基金には4つの支援給付金(事業)がある

先ほど紹介した交通遺児等育成基金は、以下のように生活資金などの支給給付金を給付しています。

対象となるのは、自動車事故で亡くなった親の児童や重度後遺障害が残った親の児童です。支援給付金には次の4種類があります。

越年資金

越年資金は、義務教育終了前の交通遺児がいる生活困窮度が高い家庭に、新年を迎えるための生活資金を給付します。金額は義務教育終了前の児童1人あたり2万5千円です。

入学支度金

入学支度金は、生活困窮度が高い家庭の交通遺児が小学校と中学校に入学するときに給付されます。金額は児童1人につき5万円です。

進学等支援金

進学等支援金は生活困窮度が高い家庭の交通遺児が義務教育を終了し、高校に進学したり就職したりするときに給付されます。金額は児童1人につき5万円です。

緊急時見舞金

緊急時見舞金は、義務教育終了前の交通遺児がいる生活困窮度が高い家庭において、交通遺児や扶養者が死亡したり、重度の後遺障害を負ったりしたときに給付されます。

また同様の家庭において災害などにより甚大な被害を受けた場合も給付されます。金額は1家庭10万円または5万円です。

交通遺児育英会

公益財団法人交通遺児育英会は、交通遺児(生徒、学生)が経済的な困難に陥ったときに学資(奨学金)を貸与しています。

交通遺児育英会の奨学金制度は、親が交通事故で亡くなったり著しい後遺障害のために働けなくなったりした場合に、高校生以上の生徒または学生に奨学金を貸与するものです。貸与額は以下のとおりです。

奨学金の月額

  • 高等学校および高等専門学校:2万円、3万円または4万円から選択
  • 大学・短期大学:4万円、5万円または6万円から選択
  • 大学院:5万円、8万円または10万円から選択
  • 専修学校専門課程および各種学校:4万円、5万円または6万円から選択
  • 専修学校高等課程:2万円、3万円または4万円から選択

入学一時金

  • 高等学校および高等専門学校:20万円、40万円または60万円から選択
  • 大学・短期大学:40万円、60万円または80万円から選択
  • 専修学校専門課程および各種学校 :40万円、60万円または80万円から選択
  • 専修学校高等課程:20万円、40万円または60万円から選択

進学準備金の貸与

  • 高校奨学生でかつ大学予約・専修予約申込者:40万円、60万円または80万円から選択

いずれも無利子で貸与されますが、各奨学金には募集人員の上限が決まっています。応募が上限を上回った場合は、交通遺児の条件や在学学校、家計などを勘案して選考します。

また奨学金制度を申し込むときの学業成績は問われませんが、奨学生となった後に留年すると原則、奨学金が停止されてしまいます。

あしなが育英会は「交通遺児」対象外

生活困窮家庭の遺児を支援する団体としてあしなが育英会があります。間違えやすいのですが、実は交通遺児はあしなが育英会の支援の対象外となっています

あしなが育英会は、病気や災害、自殺など、交通事故以外の理由で保護者を失った子どもたちを支援するものです。

まとめ

「親がいない」ということは、大きな社会的ハンデになります。経済的な問題だけではありません。

子どもにとって、心のよりどころを失い、最も身近にいて最も親身になってくれる人生の指導者がいなくなるからです。

交通遺児を対象としたさまざまな支援制度を活用すれば、その社会的ハンデを少しでも減らすことができます。

ここで紹介した支援制度を上手に活用し、学業や進学をあきらめず、前に進んでいただくことを切に願います。

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