居眠り運転で交通事故!睡眠障害による事故の罰則はどうなるのか。

居眠り運転は飲酒運転や危険ドラッグ運転より「悪質さが少ない」と感じる方がいるかもしれません。
交通死亡事故を起こしたとき、飲酒運転や危険ドラッグ運転が原因の場合、人々の加害者への処罰感情は相当高まります。
しかし睡眠障害で居眠り運転をして事故を起こした場合、「病気による不可抗力」という説明も一応説得力を持ちます。
しかし居眠りでも飲酒でも危険ドラッグでも、交通死亡事故の「結果の悲惨さ」は同じです。
そして居眠り運転による交通死亡事故の加害者の罰は、飲酒運転や危険ドラッグ運転による交通死亡事故の加害者と同じになることもあります。
つまり法律的には居眠り運転も「相当に悪いこと」と認定されるのです。
この記事では、居眠り運転がどれだけ危険なものか、また、睡眠障害による居眠り運転では加害者の罪は問われるのかを見ていきます。
- 目次
死亡事故の4割は居眠り運転を含む前方不注視によるもの
「居眠り運転は交通事故を起こしやすい」と聞いたら、「当たり前だ」と思うでしょうか。しかしこの当たり前なことが、居眠り運転交通死亡事故の本質なのです。
例えば同じ乗り物でも、ジャンボ旅客機や一部の鉄道には自動運転装置が備わっています。運転者がいなくても、一定時間は安全に飛行・走行できます。
自動車の自動運転技術も開発されていますが、それよりも早く飛行機と鉄道で自動運転が実現できたのは、飛行・走行場所に障害物がほとんどないからです。
飛行機と鉄道の進路に小さな子供が飛び出してくることは滅多に起きません。
しかし自動車が走る一般道路は人々の生活空間と交錯しています。だから自動車の運転は「一瞬の気の緩み」も許されないのです。まして居眠りをすれば、かなりの高確率で事故を起こすでしょう。
公益財団法人高速道路調査会によると、高速道路の交通死亡事故の4割が前方不注視でした。前方不注視とは要するに「前を見ていない」ということです。
前方不注視のなかには、居眠り運転も含まれています。
時速100kmで走行中の自動車は、1秒間に約30メートル進みます。5秒間目を閉じただけでも、100メートル先を走る自動車が急ブレーキをしたら衝突してしまうのです。
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判例からみる睡眠障害よる居眠り運転の罪と責任の重さ
睡眠障害とは
居眠り運転の原因として睡眠障害が注目されています。睡眠障害とは、睡眠に関して何らかの問題がある障害のことをいいます。
最近は、不眠症だけでなく睡眠時無呼吸症候群などさまざまな症状が睡眠障害として報告されています。睡眠障害は「病気の一種」あるいは「病気そのもの」です。
病気による交通死亡事故は事故を予見できたかどうかがカギになる
睡眠障害は「病気の一種または病気そのもの」であると説明しました。
睡眠障害という病気によって事故が発生し、その事故によって誰かが亡くなったとしても、事故を起こした人に刑事罰を与えないことがあります。
病気による事故は誰も避けようがないので罪を問えないからです。
2014年に福岡県で、20代女性が運転する自動車が男性をはね、死亡させる事故が起きました。女性は過失運転致死の容疑で逮捕されました。
女性は事故後、突発性過眠症という突然眠気に襲われる睡眠障害があると診断されました。裁判では、急に眠ってしまったことで運転ができなくなり事故を起こしたと認定されました。
運転に支障が出る場合は運転してはいけないとされています。したがって、運転者には道路交通法第66条(過労運転等の禁止)などにより、運転中止義務が課されています。
運転中止義務違反には5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。これはかなり重い罪といえます。
しかし、運転できない状態とわかっていながら運転すれば、自動車は殺傷能力が極めて高い凶器になります。罪の重さとして当然といえば当然です。
この女性は一審では無罪が言い渡されました。それはこのときの女性は「運転中に突発性過眠症が起きることを予見できなかった」と認定されたためです。
つまり、「病気による事故は誰も避けようがないので、このときの女性には運転中止義務違反はなかった」とみなされました。
ただし、この判例では、その後の検察側の控訴により一審の判決が破棄されてしまいます。
これは、女性が事故前にも突然居眠りすることがあり、突発性過眠症と診断される前ではあるが、十分事故を予見できたとみなされたことによるものです。
この結果、被告となる女性には有罪判決(禁錮2年・執行猶予3年)が言い渡されました。
懲役9年6カ月の実刑になる場合も
しかし睡眠障害による交通死亡事故なら、誰でも無罪になるわけではありません。
2012年に群馬県で起きた高速ツアーバスの事故は、睡眠障害による交通死亡事故として社会に大きな衝撃を与えました。
バスの運転手が運転中に、睡眠障害のひとつである睡眠時無呼吸症候群を発症して眠ってしまい、バスが高速道路の壁に「めり込む」ように衝突しました。
その結果、ツアーバスの乗客7名が亡くなり重軽傷者は39人にのぼりました。バス運転手は自動車運転過失致死傷罪(現・過失運転致死傷罪)容疑で逮捕されました。
バス運転手側は裁判で、睡眠時無呼吸症候群によって突然意識を失ったため過失は問えないと主張しました。
しかし、裁判所は懲役9年6カ月、罰金200万円の実刑判決を言い渡し、刑が確定しました。
これは、事故当時の運行記録計や目撃者の証言から 「加害者である運転手は、事故前から眠気を感じていたことは明らかであるにも関わらず、運転を中止するなどの処置をとらなかった」と判断されたことによります。
居眠り運転による交通死亡事故は、例えそれが睡眠障害という病気によるものだとしても実刑判決を受けることがあるのです。それくらい運転中止義務は厳しく判定されるのです。
睡眠障害と交通事故の関係性
交通事故を引き起こす居眠り運転の原因として、睡眠時無呼吸症候群(以下、SAS)は広く認知されました。またSAS以外にも運転リスクを高める睡眠障害はあります。
これらの病気と交通事故の関係をみていきましょう。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは
SASは睡眠中の呼吸が止まってしまう病気です。SASと診断されるのは下記になります。
「10秒以上の呼吸停止(無呼吸)が7時間の睡眠中に30回以上あった場合、または1時間あたり5回以上あった場合」
一般的には喫煙、深酒、肥満、高血圧、糖尿病などがSASを引き起こすとされています。ただやせている人もSASにかかることもわかっています。
SASを発症すると「睡眠時に眠れていない」状態になるので、常時睡眠不足になります。それで日中の仕事中などに突然、無意識に居眠りしてしまうのです。
ある試算では、日本ではSASの発症によって3.5兆円もの経済損失が生じているといいます。
ここで、日本交通科学学会の評議員で慶應義塾大学医学部助教(医師)である馬塲美年子氏たちのSASに関する論文内容を紹介します。
SAS患者が交通事故を起こすリスクは健常者に比べて有意に(統計学的に確実に)高いことがわかっています。
馬塲氏らが、SAS患者で交通事故を起こして刑事事件になった15人を調査したところ、事故前からSASと診断されて治療を受けていたのは2人だけでした。
SAS患者の多くは「日中に眠たくなるのは自然のこと」と考え、SASかもしれないことを疑わないといいますが、そのことを証明した形です。
そして15人のうち12人が、裁判で「SASによって心神喪失症状に陥ったため」として無罪または減刑を主張しましたが、無罪判決が出たのは2人だけでした。
馬塲氏らはこの調査から、次の3項目を指摘しています。
論文ではSASの事故リスクについて啓発する必要がある、と警鐘を鳴らしています。
別の調査では、居眠り運転をした経験を持つ割合は非SAS者は5.3%でしたが、SAS患者は28.2%でした。実に5倍以上の開きがあったのです。
SAS以外の睡眠障害
交通事故のリスクが高まる睡眠障害はSAS以外にも下記のようなものがあります。
ナルコレプシー
交通事故リスクの高い睡眠障害のひとつがナルコレプシーです。ナルコレプシーは別名「居眠り病」と呼ばれるほど、突如眠りに陥る病気です。
日中、他の人と普通に会話しているときに眠ってしまうこともあります。ナルコレプシーの「居眠り時間」は5~30分といわれ、本人が居眠りしたことに気付かないという特徴があります。
ナルコレプシーは脳の神経物質の異常が原因とされていて薬で抑制することができます。つまり薬で日中に突然眠らなくすることができるのです。
情動脱力発作
交通事故のリスクが高まる睡眠障害には、ほかにも情動脱力発作という病気があります。
情動脱力発作は感情が高ぶったときに急に力が抜けて眠りに落ちてしまう病気です。情動脱力発作はカタプレクシーとも呼ばれます。
突発性過眠症
前述にもありました突発性過眠症も交通事故発生リスクが高い睡眠障害です。突発性過眠症は、日中眠気に襲われて居眠りを繰り返してしまいます。
しかし、突発性過眠症は発生原因や治療法が確立されていない病気です。
重度の睡眠障害は運転免許を取得できない。虚偽申告には罰則も。
道路交通法第90条は下記のように規定しています。
「自動車運転に支障を及ぼすおそれがある病気を持つ人に対し、公安委員会は免許を与えてはならない」
SASなど重度の睡眠障害はこれに該当するため、該当する患者は免許を取得できないことになっています。
免許取得後に睡眠障害が発症した場合、道理としては免許を返納しなければなりませんが、 そのような法律はありません。
ただし、公安委員会は免許更新に来たすべての人に質問票を渡します。
そこには以下の項目があります。
「過去5年以内に十分な睡眠時間を取っているにもかかわらず、日中、活動中に眠り込んでしまった回数が週3回以上になったことがあるか」
SASを含む重度の睡眠障害の人はこれに該当します。
この質問に「ある」と答え、さらに医師から半年以内に回復する見込みがないと診断されると、運転免許は取り消されてしまう可能性があります。
もし実際は「ある」なのに「ない」と答えると虚偽申告となり、道路交通法によって1年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。
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まとめ
重度の睡眠障害があり治療見込みがなく、医師から運転しないほうがよいと助言された方は運転をあきらめたほうがいいでしょう。
睡眠障害があるにも関わらず運転して交通事故を起こし、人にけがを負わせたり死亡させてしまったりしたら犯罪者になってしまうからです。
こうなってしまうと、被害者や被害者家族だけでなく、自分や自分の家族も不幸におとしいれることになります。
日ごろから自分の体調をチェックし、日中眠気に襲われることが多い場合は車の運転を中止し、早めに医師に相談しましょう。
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