危険運転致死傷罪とは?罰則や適用される場合とは

飲酒時、薬物服用時、疾患がある場合など、運転が困難な状況での走行や、ルールを無視した運転で事故を起こした際に適用される罪状のなかに「危険運転致死傷罪」があります。これは特に危険な運転行為に対して厳罰化の末に設けられた法律です。ここでは、どのような状況で適用される法律なのかを、詳しく説明していきます。
危険運転致死傷罪とは
危険運転致死傷罪とは、酩酊状態や薬物を使用した上での運転、一定の病気を抱えた上での運転、制御が困難な速度での運転、信号無視での運転、走行が禁止されている道路での高速運転により、人を死傷させる行為をいい、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷行為処罰法)に定められています。
飲酒運転、無免許運転、無保険運行(自賠責保険未加入車の運転)していた男性が、検問から猛スピードで逃走し、歩道を歩いていた大学生2名を死亡させた事件が発生しましたが、当時、刑法の業務上過失致死傷罪(5年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金)の規定しか存在しなかったため、特に危険な運転行為に対して厳罰化を求める運動が起きました。
この結果、刑法において危険運転致死傷罪が設けられましたが、その後、自動車運転死傷行為処罰法が定められ、危険運転の範囲が拡大されました。 なお、自動車運転死傷行為処罰法では、四輪車だけでなく原動機付自転車や自動二輪車も適用対象に含まれますし、道路以外の場所で発生したものも適用対象となります。
自動車運転死傷行為処罰法が定める危険運転には以下のものがあり、これらの運転行為を行って人を死傷させた場合が処罰対象となります。
アルコール又は薬物の影響により、正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為(酩酊・薬物運転)
「正常な運転が困難な状態」とは、前方注視やハンドル、ブレーキ等の操作が困難な状態であることを指し、道路交通法の酒酔い運転にあたる場合であっても必ずしも危険運転致死傷罪に該当するわけではありません。
他方、薬物は、違法薬物に限らず、眠気を誘発する副作用がある市販の薬であったとしても、それを服用して正常な運転が困難な状態にあれば危険運転致死傷罪に該当します。 本罪が成立するには、運転者に、アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難であることの認識が必要になります。
アルコール又は薬物の影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれを予め認識していながら自動車を運転し、その結果としてアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥った場合(準酩酊・準薬物運転)
本罪では、運転者に「正常な運転が困難な状態」にあることの認識がなくても、酒気帯び程度の判断能力の低下の認識があり、現実には「正常な運転が困難な状態」にあれば成立することになります。
本罪は、飲酒し、薬物を使用していたが「正常な運転が困難な状態」にあるとは思っていなかったという言い逃れを防ぐために設けられたものです。
政令に定める特定の疾患の影響により、走行中に正常な運転に支障が生じるおそれ(危険性)を予め認識していながら自動車を運転し、その結果として当該疾患の影響により正常な運転が困難な状態に陥った場合(病気運転)
運転前または運転中に発作の前兆症状が出ている場合に限らず、所定の治療や服薬を怠っていた場合で、事故時に結果的に「正常な運転が困難な状態」であれば、本罪が成立します。
また、運転者に「正常な運転が困難な状態」にあることの認識が求められていません。 本罪の特定の疾患とは、以下のものを指します(認知症は含まれません。)。
- 運転に必要な能力を欠く恐れがある統合失調症
- 覚醒時に意識や運動に障害を生じる恐れがあるてんかん
- 再発性の失神障害
- 運転に必要な能力を欠く恐れがある低血糖症
- 運転に必要な能力を欠く恐れがある躁鬱病(単極性の躁病・鬱病を含む)
- 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為(制御困難運転)
直線道路等では制限速度をおおむね50km/hを越えた場合に適用が検討されます。
なお、カーブ等では制限速度を40-60km/h超えた場合に限界旋回速度を超過したとして適用された事例、路面の縦断線形が長周期の凹凸になっている場所で制限速度を30km/h超えて進入し転覆等を起こした事故で適用された事例があります。
また、速度超過だけでなく、ドリフト走行やスピンターンを行って事故を起こした場合も適用対象になりえます。
進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為(未熟運転)
免許を有しているか否かとは関係なく、現実に運転技能を有していない状態で運転する行為を指します。
人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為(通行妨害運転)
理由の如何を問わず、意図して「人又は車の通行を妨害する」行為をいい、過度の煽り行為、割り込み・幅寄せ・進路変更などがあります。 なお、「重大な交通の危険を生じさせる速度」とは、相手方と接触すれば大きな事故を生ずる速度をいい、状況次第では20km/h程度であっても、これにあたる場合があります。
赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為(信号無視運転)
「殊更に」赤信号を無視した場合ですので、見落としや誤認、信号の変わり際(黄信号から赤信号へと変わる瞬間、全ての信号が赤の場合)は含まれません。 なお、「重大な交通の危険を生じさせる速度」は「通行妨害運転」と同様です。
自動車の通行が禁止されている政令に定める道路(道路の一部分を含む)を自動車によって通行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為(通行禁止違反運転)
自動車の通行が禁止されていることに対して故意が必要であるため、道路標識の見落とし等の過失による場合や、認知症などで認識能力を欠いている場合には適用されません。 なお、「車両の種類」(大貨等、二輪など)、「最大積載量」、「重量・高さ・横幅の制限」は、ここでいう「自動車の通行が禁止されている」に含まれません。
ただし、「車両の種類」の制限であっても、「軽車両を除く」「自転車及び歩行者専用」「自転車専用」などの場合は、通行禁止対象から軽車両や自転車を除外しているに留まり、自動車(原付を含む)についてはすべて通行禁止対象なので、この規定の適用対象となります。
また、通行の日付・時間帯(例えば「歩行者専用 7~9時」)のみを条件とする制限は対象となります。
発覚免脱
「酩酊・薬物運転」「準酩酊・準薬物運転」の場合に、運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させること、その他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為については、「酩酊・薬物運転」「準酩酊・準薬物運転」とは別に処罰対象となります。
なお、その場を離れた場合には、さらに、救護義務違反の罪も成立します。
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危険運転致死傷罪の罰則
危険運転致死傷罪の罰則は以下のとおりです。
なお、危険運転致死傷罪に該当する態様で死傷事故を起こした場合には、致傷で違反点数45~55点(欠格期間5~7年)、致死で違反点数62点(欠格期間8年・前歴のある場合には最大10年)となっています。
刑法において危険運転致死傷罪が設けられていた時代の最高裁の判決ではありますが、「アルコールの影響などにより正常な運転が困難」な場合については、事故の状況を総合的に考慮すべきだとし「アルコールの影響による前方不注意により危険を的確に把握して対処できない状態も危険運転にあたる」という判断が示され、危険運転にあたる否かの判断が柔軟に行われるべきであるとされていますので、自動車運転死傷行為処罰法が積極的に適用されていくと考えられています。
自動車運転死傷行為処罰法が適用された事例では、脱法ハーブを使用した上で軽自動車を運転し、時速60㎞で追突し3人を負傷させた事件では懲役1年10カ月の実刑判決が下され、危険ドラッグ吸引した上でRV車を暴走させて死亡事故を発生させた運転者には懲役8年の刑が下されています。
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