労災の後遺障害認定方法とは。自賠責の後遺障害診断書との違いと注意点。

交通事故は人体に大きな影響をおよぼします。交通事故の被害にあった方のなかには、交通事故のケガの治療が終了したにも関わらず、後遺症が残ってしまった方も多くいます。
後遺症は、後遺障害認定を受けることで、後遺障害の補償として金銭の支払を受けられます。これは傷病についての慰謝料とは別に支払われるものです。
ところで、この後遺障害等級認定には、自賠責保険による認定と労災保険による認定の2種類があることをご存知でしょうか。
労災保険による後遺障害等級認定は労働者のみが対象になるので、自賠責保険による後遺障害等級認定申請ほどは、広く周知されていないかもしれません。
ここでは、労災保険の後遺障害認定の流れについて、自賠責保険の後遺障害等級認定との違いも踏まえて解説します。
- 目次
労災保険と自賠責保険の違い
労災保険とは
労災保険とは、労働者災害補償保険法に基づいて雇用主に加入することが義務付けられている保険です。
ここでいう雇用主とは、大会社に限らず、たとえひとりでも労働者を雇用している事業者であれば加入対象となります。したがって、ほとんどの労働者は補償が受けられる可能性があります。
労災保険は、勤務中や通勤の際に労働者が負ったケガや病気に対して保険金が給付されるという労働者を守るためにつくられた制度です。
ケガそのものへの傷病給付だけではなく、治療や入院などで働けない期間に対する給料の補償、傷病治療後も後遺障害が残った場合の給付や、遺族への死亡保険金も含まれます。
後遺障害が残った場合の給付とは
後遺障害が残った場合、労災保険では認定された等級に応じて、以下のような給付を受けることができます。
表のように労災保険で受け取ることのできる給付には年金と一時金の2種類があります。一時金と異なり、年金は継続的に受け取ることができます。
治療が長引いたときに受け取れる給付とは
なお、労災保険では、「治療開始から1年6か月経過してもまだ治療が終わらない(症状固定しない)」症状の場合に下記の給付を受け取ることができます。
上記の給付は、前述の「後遺症」が残ったときに支払われる給付ではありません。治療開始から1年6か月経過しても治療が終わらないとき(症状固定しない)に受け取ることができます。
つまり、まだ改善の余地が見込める場合に受け取る給付です。 後遺障害はこれ以上治療しても改善が見込めない(症状固定)ときに認められるものです。
長引く治療の結果、後遺障害が残った場合は、後遺障害が残った場合に受け取れる給付に切り替わります。
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自賠責保険とは
自賠責保険とは、自動車損害賠償保障法に基づき、全ての車の運転者に義務付けられている強制保険です。
自動車事故の対人被害のみを対象としており、大きく分けるとケガによる傷病慰謝料と後遺障害認定を受けた場合の後遺障害慰謝料、死亡した場合の死亡慰謝料の3つがあります。
勤務中や通勤中の交通事故
勤務中や通勤中の交通事故で被害に遭い、ケガをして後遺症が残った場合、労災保険でも自賠責保険でも後遺障害等級認定申請が可能になります。
労災保険の後遺障害等級認定申請と自賠責保険の後遺障害等級認定は、認定申請をする相手先も補償の内容も違うため、別々に申請をおこなうことになります。
労災保険にも自賠責保険にも申請したほうがよい場合
後遺障害等級は、1級~14級まであり、番号が若いほど重篤な症状だとみなされ、支払われる金額が大きくなります。
労災保険では、「後遺障害が残った場合の給付とは」で説明したように、14級から8級までの比較的症状が軽い等級については年金はなく一時金のみの給付になります。
この一時金は自賠責保険慰謝料と重複した補償範囲とみなされています。このとき、重複した補償範囲に対する給付の二重取りを防ぐために金額の調整をおこないます。
したがって、労災保険から一時金を受けた後に重ねて自賠責保険にも申請する意味はありません。
しかし、7級より上の重い後遺障害の場合は、労災保険から年金を受取ることができます。3年目までは自賠責保険と補償範囲が重複するとみなされます。
しかし、4年目以降の年金は自賠責保険で支払われる慰謝料とは補償範囲重複しないと判断されます。
この場合、労災保険の年金と自賠責保険慰謝料を重ねて受取れるため、両方に申請する意味がでてきます。
労災保険への後遺障害の申請手続き
労災保険の後遺障害診断書はどこで入手するのか
後遺障害等級認定申請には、後遺障害診断書を提出する必要があります。後遺障害診断書は、後遺障害の症状を主治医や病院が詳しく記載したものになります。
労災保険の審査では後遺障害診断書は重要な資料です。
審査機関である労災保険に提出する後遺障害診断書のフォーマットは、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードをすることができますので、これをプリントアウトするなどして利用しましょう。
参考:労働者災害補償保険「障害補償給付支給請求書」
労災保険の後遺障害診断書は自賠責保険用とフォーマットが違う
後遺障害診断書のフォーマットは、自賠責保険向けに提出するものと労災保険向けに提出するものでフォーマットが異なります。
同じ後遺障害等級認定審査であっても、異なる法律を根拠として異なる組織が審査をするためです。自賠責保険で後遺障害等級認定申請をおこなう方法としては、
の2つがあります。事前申請の場合は保険会社が用意したものを使うことが多く、被害者申請の場合は、ダウンロードして利用したり依頼する弁護士に用意してもらったりします。
労災保険と自賠責保険の後遺障害診断書の違いは、自賠責保険用のフォーマットのほうが、やや記載事項が細かいといわれています。
自賠責保険の審査は書面審査のみですので、後遺障害を認定する際に大きな判断要素となるからです。
このように、勤務中や通勤中の交通事故で自賠責保険と労災保険どちらにも後遺障害等級認定申請をする場合、主治医に異なるフォームで二通の診断書を作成してもらうことになります。
手違いや二度手間を防ぐためにも、診断書作成を医師に依頼する際は十分に注意しましょう。
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労災保険の後遺障害等級認定の手続き
後遺障害等級認定申請書類の提出先
労災保険の場合、後遺障害等級認定申請のために後遺障害診断書などの申請書類を提出するのは労働基準監督署となります。
認定申請がおこなわれると、労災保険上の後遺障害等級にあたるか、あたるとしたら何級の認定が相当かということについて審査をします。
実際の審査基準は、労災保険と自賠責保険で内容に差異はありません。自賠責保険の審査をする自賠責保険事務所は、労災保険の審査基準を準用しているからです。
しかしながら、審査の方法としては大きな違いがあり、自賠責保険は書面審査が中心となるのに対して、労災保険では地方労災医員という医師が被害者と面談で審査します。
労災保険のほうが認定される後遺障害等級が高い傾向がある
一概に言えませんが、労災保険の面談審査のほうが自賠責保険の書面審査よりも、一般的に高い後遺障害等級認定がされる傾向があります。
たとえば、むちうちや神経障害のような画像所見で確認できない後遺症は証明しづらいことがあります。この場合、場合によっては書面審査では思わしい等級認定が得られないこともあります。
特に、事前申請で加害者側の保険会社が申請書類を作っている場合は注意が必要です。
後遺障害認定で慰謝料や給付が高く認められても、それらは被害者に払われるものです。そのため、保険会社が自覚症状や因果関係などについて十分な説明を尽くさず、残念な結果に終わることもあります。
面談審査の場合、被害者本人から自覚症状などを詳しく医師に訴えることができるので、書面審査よりも症状を伝えやすく、他覚的所見に乏しい症状であっても高い後遺障害等級が認定されることもあります。
そのため、自賠責保険にも労災保険にも後遺障害等級認定申請を出す場合は、まず労災保険に認定申請をおこないます。
労災保険での認定が出たあと認定結果を添付して自賠責保険に出せば、労災保険で出た後遺障害等級認定を自賠責保険でも認めてもらえる可能性があります。
労災保険での後遺障害等級認定審査が終わったら
労基署での後遺障害等級認定審査が終わったら、被害者に対して厚生労働省から支給決定通知が送付されてきます。
通知の前後に、被害者の指定した銀行口座に後遺障害等級に応じて決められた一時金または年金が振り込まれます。
振込みと前後して振込み通知も送られてきますが、最近の運用では支給決定通知と一緒に送られてくることが多いようです。
残念ながら後遺障害等級認定がされなかった場合は、こららの書類の代わりに不支給決定通知が届けられます。
不支給決定に納得がいかない場合
被害者が不支給決定に納得がいかない場合、決定をした労働局の労働者災害保険審査官にもう一度審査するように請求することができます。この請求は不支給決定から3ヶ月以内におこなう必要があります。
この審査の結果にも納得がいかなかった場合などは、労働保険審査会に再審査請求をすることができます。このとき、前の審査決定通知の謄本が送られた日から2ヶ月以内に請求する必要があります。
後遺障害等級認定請求をする際には弁護士に相談しよう
自賠責保険の後遺障害等級認定とは似て非なる労災保険への後遺障害等級認定審査の手続きについて説明しました。
勤務中や通勤中の事故については、自賠責保険にも労災保険にも後遺障害等級認定請求をすることになります。
ただでさえ被害者は後遺症で苦しんでいるのに、後遺障害等級の申請という負担があります。
後遺障害等級認定をする際には、交通事故に強い弁護士に相談・依頼することがおすすめです。
交通事故に強い弁護士であれば、多くの後遺障害等級認定申請を扱ったことがあるため、効果的な後遺障害診断書の書き方や医師への依頼方法、提出の手順などについてアドバイスができます。
弁護士に相談するときとなると弁護士費用が心配という方もいると思います。任意保険には弁護士費用をカバーする弁護士費用特約が付されていることもあります。
弁護士費用特約に入っている場合、300万円程度まで弁護士費用がカバーされますので、安心して相談できます。ぜひ、ご自身の任意保険を確認してみてください。
後遺症で苦しみ、後遺障害等級認定申請を考えている方は、ぜひ一度弁護士への相談も検討してみるといいでしょう。
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