交通事故裁判の判決に納得できない!上訴のすべてを徹底解説

交通事故の被害者が、相手方又は相手方の加入する保険会社との間で損害賠償の交渉がうまくいかなかった場合には、訴えを提起することもあります。しかし、実際に裁判をしても、裁判所が被害者の希望通りの判決を出すとは限りません。このように、裁判所の裁判に不服がある場合には、「上訴」という手続をとることになります。では、「上訴」とは何を意味するのでしょうか。また、その具体的な手続はどのようなものなのでしょうか。本記事では、「上訴」について詳しく説明します。
- 目次
上訴をするための条件
上訴とは
日本の裁判制度では、いわゆる三審制というものが採用されております。
三審制とは、同じ事件について原則として裁判を3回まで受けられるという制度のことをいいます。
仮に1回目の裁判をどこかの地方裁判所で行った場合には、地方裁判所→高等裁判所→最高裁判所という流れで、3回まで審理してもらうことができます。
1回目の裁判が簡易裁判所であった場合には、簡易裁判所→地方裁判所→高等裁判所という流れで審理してもらうことができます。
そして、1回目の裁判に不服がある場合の不服申立を「控訴」、2回目の裁判に不服がある場合の不服申立を「上告」といいます。
上訴とは、控訴と上告をまとめた言葉です。
では、裁判に不満があればどんなときでも上訴できるのかというと、そういうわけではありません。一定の条件が揃わないと、上訴できないのです。
ここにいう一定の条件のことを、法律用語で「要件」といいます。具体的に、控訴と上告のそれぞれについて要件を見てみましょう。
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控訴の要件
裁判が控訴を許すものであること
皆さんがよく耳にされる「判決」というものには、実は種類があるのです。
裁判所は、最終的な結論を下す判決(これを終局判決といいます)以外にも、その過程でさまざまな判決を下すことがあります。
ですが、一般的には最後の判決であればこの要件を満たすと考えていただいてかまいません。
控訴提起が適式・有効であること
控訴をするためには、書面で、民事訴訟法およびそれに関連する法令が規定する一定の事項を記載しなければいけません。
控訴期間を過ぎないこと
控訴の提起は、判決の送達がなされた日から2週間以内に行わなければなりません。2週間がすぎると控訴できなくなってしまいます。
控訴の利益があること
控訴の利益とは、第1審での当事者の申立てと判決主文とを比較して、後者が前者におよばないことをいいます。この概念は難しいので、詳しく説明しましょう。
裁判所の出す判決は、大きく「主文」と「理由」に分かれています。
「主文」は、原告が被告に求めていた請求に対する結論のみを示したものです。
交通事故の損害賠償請求の場合を例にあげると、「被告は、原告に対し金100万円およびこれに対する平成28年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金銭を支払え」などと、「被告さんは、原告さんに100万円を払いなさいよ」というだけの内容です。
しかし、主文だけを見ても、それが売買代金なのか、貸金なのか、損害賠償請求なのかは、分からないのです。
そこで、これがどういうお金なのか、なぜ被告はこのお金を払わなければならないのか、などの詳細は「理由」に記載されるのです。
控訴の利益は、この「主文」に不服がある場合にのみ認められるのです。
言い換えると、裁判所の出した結論に不満があれば控訴の利益はありますが、その理由や過程に不満があっても控訴はできないということになります。
したがって、例えば、裁判官が私の怒りの気持ちをきちんと判決に反映していない、裁判官の態度が良くない、よく分からないところで怒られた、などという点に不満を持っていたとしても、控訴の利益はないため、控訴はできないのです。
上告の要件
上告の要件も、控訴の要件と同じです。ただし、上告特有の特殊な要件があります。
これを「上告理由」といいます。上告理由には、次の3つのものがあり、いずれか1つに該当すれば上告できます。
憲法違反があること
憲法が関連する案件は、基本的に上告することができます。憲法上の問題が関連するということは、個人の人権が関連している可能性が高く、極めて重要な問題だからです。
重大な手続違反
次のいずれかの事由があるときは、上告できます。いずれも難解な文言が並んでいますが、これらを詳しく説明すると、専門書1冊分程度の分量になってしまいますので、ここでは割愛させて頂きます。
1.法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
2-①.法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
2-②.日本の裁判所の管轄権の専属に関する規定に違反したこと。
3.専属管轄に関する規定に違反したこと(第6条第1項各号に定める裁判所が第1審の終局判決をした場合において当該訴訟が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときを除く)。
4.法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
5.口頭弁論の公開の規定に違反したこと。
6.判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。
判決に影響をおよぼすことが明らかな法令違反
ただし、この要件には注意が必要です。この要件は、あくまで高等裁判所に上告する場合にのみ適用されます。
そのため、最高裁判所に対して、判決に影響をおよぼすことが明らかな法令違反があることを理由に上告することは、原則としてできません。
これら3つが上告理由です。
ただし、これらに当たらなくても、上告をなしうるケースがあります。
それは、裁判所が判例違反などの法令の解釈に関する重要な事項を含む事件について、「これは上告を受理した方がよい」と思われるものについては、上告受理をしてくれることがあるのです。
上訴の手続方法
上訴は、原審の裁判所に、判決書送達の2週間以内に控訴状または上告状を提出して行います。
控訴状または上告状が原審の裁判所から上訴裁判所に送付された後は、控訴の要件を満たしていれば、被控訴人に送達されます。
なお、控訴状に控訴理由を記していない場合には、上訴提起後50日以内に控訴理由書を提出する必要があります。
控訴状には、当事者および法定代理人の表示のほか、原判決とこれに対する控訴であることを表示することになります。
実務的には、特定のために原判決の内容を表示し、控訴の趣旨として、控訴審で求める判決の内容を記載することが一般的です。
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上訴の効果
上訴をしたら、確定遮断効(原判決の確定が遮断される)、移審効(上級審に事件が係属)、上訴不可分の原則など、さまざまな効果が生じますが、このあたりを詳しくお知りになりたい方は弁護士に相談しましょう。
ここで、皆さんにお伝えしておきたいのは、上訴によって判決が自分に不利に変更されるおそれはあるのか、ということです。
例えば、あなたが第1審で100万円を請求したところ、判決で40万円のみが認められたとします。
この場合、あなたが上訴をしたことで、この判決が20万円になることはあるのでしょうか。
結論から申しますと、上訴したのがあなただけであれば、自分にとって判決内容が不利に変更されることはありません。
上訴審が審理をするのは、上訴判決に対する不服の範囲のみですので、上記の例でいえば、100万円すべてが審理範囲にはならず、判決で認められた40万円と請求額である100万円の差額の60万円のみが審理範囲となります。
もっとも、被告も控訴することがあります。
先ほどの例でいえば、被告は、原告の請求の一切を認めないという判決を求めていたのに対して、判決は40万円の限度で請求を認めたのですから、当然この40万円の限度で不服があります。
この場合に、被告が上訴したら、この40万円も不服申立の範囲に含まれますので、上訴審であなたにとって不利益に変更されることがあります。
また、上告審においては、事実の認定は原則としてなされません。
第1審と第2審は、証拠から事実を認定して、それを法的に評価するという作業をしますが、上告審では事実を認定することはされないのです。
控訴判決などの種類
第1審の判決に誤りがなく、控訴は認められないと分かった場合
審理の結果、第1審の裁判手続や、判決の内容に間違いがないと分かったときは、控訴を認めないという意味の「控訴棄却の判決」をします。
第1審の判決に誤りがあるなど、控訴を認めるべきと分かった場合
第1審の判決に誤りがあると分かった場合や、第1審の判決の後に被害者と示談ができるなど事情が変わったため、判決の内容を変える必要がある場合は、第1審の裁判所で言い渡された判決が取り消されます。
これを「破棄判決」といいます。
第1審の判決を「破棄」して取り消したら、改めて新しい判決がなされます。
原則としては、自ら訴えに対する判断をすること(自判)になりますが、判決を出すに際してさらに弁論が必要であると判断した場合には、第1審に事件を差し戻すことができます。
この場合、第1審は、控訴審の判断に従って再度審理をすることになります。
上訴のメリットとデメリット
以上が、上訴のおおまかな説明です。では、上訴をすることで、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
まず、メリットは、あなたが不服に思う判決が覆る可能性が生じることです。
判決の送達から2週間が経過してしまうと、その判決は確定され、よっぽどのことがない限り覆すことができません。
また、事案がシンプルであれば、審理に時間を1審ほど要しないこともあります。
次に、デメリットは、時間制限もあるため、すぐに行動しなければならない点です。
判決の送達から2週間以内に、上訴するかどうかを決めて、それを書面に書いて、裁判所に提出しなければなりません。
また、特に上告の場合には、あまり覆ることはないといわれています。
例えば、最高裁判所が、原判決を破棄したのは、全上告のうちの1%前後しかないのです。
さらに、上訴に際して、追加の費用も発生するため、経済的にもデメリットがあります。
例えば、控訴の手数料(控訴状に貼付する印紙額)は、原則として第1審の訴え提起の手数料の1.5倍になります。
ただし、算出の基礎となるのは第1審判決に対する不服部分です。
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まとめ
以上、上訴についてご説明申し上げました。
かなり内容が難解で複雑だったかと思われますが、上訴にあたっては高い専門性が必要とされる手続であること、および時間的制約を伴う手続であることをご理解頂けたかと思います。
上訴について疑問があるときには、まずは弁護士に相談されることがよいと思われます。
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