交通事故のレアケース!実際にあった珍しい判例まとめ

昨今、日本では数多くの交通事故が発生しています。平成28年には、全国で49万9,201件の交通事故が発生したそうです。単純計算で、1日に約1,300件程度の事故が起こっている計算になります。
今回は、これほど多くの交通事故が起こっている中で、通常よくあるケースとは異なる少し変わったケースを、裁判例に基づいてご紹介いたします。
- 目次
珍しい損害賠償請求の事例
1.損害賠償請求をなしうるのはどんな場合か
そもそも、交通事故に遭えば、どんな損害でも加害者に請求できるのでしょうか。
例えば、AがBから車を追突され、Aが怪我をし、その事実にショックを受けたAの妻が自殺し、そのショックでAは自分の工場を経営できなくなり、海外に住む息子が実家に戻らざるを得なくなり・・・と不幸が連鎖したときでも、加害者は被害者に生じた全ての損害を賠償しなければならないのでしょうか。
もちろん、答えはNoです。
裁判例では、損害の範囲が拡大しすぎるのを防ぐために、一般的に、ある行為からある結果が発生することが社会通念上相当かどうか、という基準で損害賠償の範囲を決めています。
2.実際にあったケース
次の記載は、交通事故により被った損害で「社会通念上相当」である(またはない)と過去に判断されたケースです。
1.交通事故で怪我をした被害者が、医師の指示もなく療養のために温泉に出かけた費用は、必要性がないので賠償範囲に含まれない。
ただし、医師が治療の一環として、温泉療法を指示した場合には、一部が賠償範囲として認められる。
2.被害者が重傷を負ったので、留学中の娘が看護のため帰国し、再度留学し直した場合、傷病の看護のために被害者のもとに赴くことを余儀なくされたこと、国際交流が発達した今日では家族が海外に赴いていることはしばしば見られることからすれば、余分にかかった旅費は賠償範囲に含まれる。
3.道で犬に吠えられ襲われた10歳の女児が逃げようとして道路に飛び出したところ、車にはねられ死亡した件では、犬が10歳の女児に対して襲いかかれば、子供は車の危険も省みずに夢中になって道路上に飛び出すことは十分あり得ることを理由に、死亡により生じた損害は賠償範囲に含まれる。
4.弁護士費用は、今日の訴訟の複雑化を考えれば、相当な範囲で認められる。
5.交通事故の被害者が後遺症からうつ病状態になり、事故後3年半が経過した時点で自殺した事案で、事故と自殺との間に相当因果関係があるのでその賠償責任を認めるが、心因的要因があるのでその減額を認める。
- 併せて読むと役立つ記事
-
運転者以外が過失に問われた例
過失相殺とは、交通事故の発生に当たって、加害者のみならず被害者にも落ち度がある場合に加害者の賠償額を縮減する制度のことです。
過失相殺が認められる典型例は、加害者は前方不注視をしていたが、被害者も一時停止を守っていなかった、などのケースなどが挙げられます。
では、被害者本人には過失はないが、被害者と緊密な関係にある者に過失がある場合、その過失を考慮して賠償額を減額することはできるのでしょうか。
例えば、親と散歩中の幼児が親の注意が離れていた隙に道路に飛び出して車にはねられたような場合です。
この点について、最高裁判所は、幼児の監督者である父母ないしその被用者である家事使用人などのように、被害者と身分上ないし生活上一体をなすとみられるような関係にある者の過失も過失相殺にあたって考慮されると判断しました。
具体的なケースとしては、幼児の監督者(父母)、その被用者である家事使用人の過失はもちろん考慮されますが、保母さんは入らないとした裁判例があります。
被害者が普通の人よりも首が長かったことが原因で怪我をした場合でも、過失割合は変わらないの?
加害者の運転する自動車に追突されて、被害者がむち打ち状態になった場合には、その治療費などは賠償範囲に入るのが原則です。
では、普通の人ならむち打ちにならないような衝撃しかなかったのに、被害者の首がたまたま人よりも長かったが故にむち打ちになったような場合などのように、被害者側に特殊な事情がある場合にもその治療費などを全額賠償しなければならないのでしょうか。
この点について、最高裁判所は、被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、その事実を賠償額算定に考慮すべきでないと判断しました。
普通の人と比べて体格差があるという生まれつきの事由を理由にして、賠償額が減額されるのは不当でしょう。この判決は、その意味で納得のいくものだと考えられております。
社用車にぶつかったときは、いつでも会社に損害賠償が可能?
自動車事故の加害者が、職務中に交通事故を起こした場合には、加害者自身のみならず、その会社にも損害賠償を請求することができます。
典型的には、運送会社Aの社員BがAの自動車に乗って仕事をしていたところで、Cに衝突してしまったような場合です。
では、Bが休日であった場合はどうでしょうか。また、A内で私用で運転することを禁じられている場合にBが私用で運転していたときはどうでしょうか。
この点について、最高裁判所は、行為の外形を基準として判断すべきであると考えています。
分かりやすく言い換えれば、客観的に見て「あ、この人今仕事中だな」と思えるような場合には、その人の会社も責任を負うということなのです。
シンプルな例として、次のようなケースを考えてみましょう。
Aさんは、自身の勤める大阪のネジ工場の車を使って私的な旅行をして北海道へ行き、北海道で交通事故を起こしました。
この場合には、客観的に見れば、大阪のネジ工場の車が北海道にあるはずはないから、「あ、この人仕事中じゃないな」と分かります。そのため、この場合には会社には損害賠償を請求できないのです。
以下、実際に会った裁判例を一部ご紹介いたします。
1.私用が禁止されているが、いつでもだれでも車の鍵を持ち出せる状態にあった会社の車を勝手に持ち出して、被害者死亡させた場合には、会社も責任を負う。
2.通勤における自家用車利用の禁止・出張の際には、上司の許可を必要とされる会社の社員が出張に際して上司に無届で自家用車を利用して出掛けて、その帰途に事故を起こした場合には、会社は責任を負わない。
3.通産省の大臣専用車の運転手が勤務時間中に辞表を提出してたが、まだ退官辞令の交付を受けていない大臣秘書官を私用で乗車させて運転中に事故を起こした場合には、国は責任を負う。
- 併せて読むと役立つ記事
-
交通事故と医療過誤が混在して被害者を死亡させた場合
最後に、複数の者の過失が競合した場合についてご紹介いたします。
このケースは、事案自体の特殊性やリアリティをもってお伝えするために、詳細に記載しております。かなり長くなるので、時間があるときにご覧ください。
事案は次の通りです。
被害者(6歳男児)Aが自転車を運転し、一時停止を怠って時速約15kmの速度で交通整理の行われていない交差点内に進入したところ、同交差点内に減速することなく進入しようとしたK株式会社従業員Bが運転する普通乗用自動車(タクシー)と接触し、転倒しました。
Aは、本件交通事故後直ちに、救急車でYが経営するY病院に搬送されました。
Yの代表者でY病院院長であるC医師は、Aを診察し、左頭部に軽い皮下挫傷による点状出血を、顔面表皮に軽度の挫傷を認めました。
しかし、Aの意識が清明で外観上は異常が認められず、Aが事故態様について「タクシーと軽く衝突したと」の説明をし、前記負傷部分の痛みを訴えたのみであったことから、Aの走行中の軽微な事故であると考えました。
そして、C医師は、Aの頭部正面および左側面から撮影したレントゲン写真を検討し、頭がい骨骨折を発見しなかったことから、さらにAについて頭部のCT検査をしたり、病院内で相当時間経過観察をするまでの必要はないと判断しました。
したがって前記負傷部分を消毒し、抗生物質を服用させる治療をしたうえ、AおよびAの母親Dに対し、「明日は学校へ行ってもよいが、体育は止めるように。明日も診察を受けに来るように」「何か変わったことがあれば来るように」との一般的指示をしたのみで、Aを帰宅させました。
Aは帰宅直後におう吐し、眠気を訴えたため、Dは疲労のためと考えてそのまま寝かせたところ、Aは、夕食をほしがることもなく午後6時30分ころに眠りにつきました。
Aは、同日午後7時ころには、いびきをかいたり、よだれを流したりするようになり、かなり汗をかくようになっていました。
しかし、DおよびAの父親Eは、多少の異常は感じたものの、Aは普段でもいびきをかいたりよだれを流したりして寝ることがあったことから、この容態を重大なこととは考えず、同日午後7時30分ころ、氷枕を使用させ、そのままにしておきました。
しかし、Aは、同日午後11時ころには、体温が39度まで上昇してけいれん様の症状を示し、午後11時50分ころにはいびきをかかなくなったため、両親は初めてAが重篤な状況にあるものと疑うに至り、翌13日午前0時17分ころ、救急車を要請しました。
救急車は同日午前0時25分にA方に到着したが、Aはすでに脈が触れず呼吸も停止しており、同日午前0時44分、F病院に搬送されたが、同日午前0時45分、死亡しました。
Aの両親は、Yに対して、6,983万9,618円を請求しました。
これに対する最高裁判所の判断は次の通りです。
まず、交通事故について、交差点に進入するに際しての注意義務を怠った、運転手Bの過失を認めるとともに、Aにも交差点に進入するに際しての一時停止義務、左右の安全確認義務を怠った過失があり、Aの過失割合は3割が相当であると判断しました。
そして、「Aは、頭がい外面線状骨折による硬膜動脈損傷を原因とする硬膜外血しゅにより死亡した」と死因を認定しました。
そのうえで、交通事故により頭部に強い衝撃を受けている可能性のあるAの診療に当たったC医師は、外見上の傷害の程度にかかわらず、当該患者ないしその看護者に対し、病院内にとどめて経過観察をするか、仮にやむを得ず帰宅させるにしても、事故後に意識が清明であってもその後硬膜外血しゅの発生に至る脳出血の進行が発生することがあることおよびその典型的な前記症状を具体的に説明し、事故後少なくとも6時間以上は慎重な経過観察と、前記症状の疑いが発見されたときには直ちに医師の診察を受ける必要があることなどを教示、指導すべき義務が存したのであって、C医師にはこれを怠った過失があると認めました。
さらに、Aの両親であるDおよびEについても除脳硬直が発生して呼吸停止の容態に陥るまでAが重篤な状態に至っていることに気付くことなく、何らの措置をも講じなかった点において、Aの経過観察や保護義務を懈怠した過失があり、その過失割合は1割が相当であると判断しました。
そのうえで、AとCの過失が混在した点について、次のように判示しました。
本件交通事故により、Aは放置すれば死亡するに至る傷害を負ったものの、事故後搬入されたY病院において、Aに対し適切な治療が施されていれば、高度の蓋然性(がいぜんせい)をもってAを救命できたとして、本件交通事故と本件医療事故とのいずれもが、Aの死亡という結果を招いたとしました。
そのうえで、AとCは、被害者の被った損害の全額について連帯して責任を負うべきものであるとの判断を示しました。
その結果、本件においてYの負担すべき損害額は、Aの死亡によるDおよびEの損害の4,078万8,076円につき被害者側の過失を1割として過失相殺による減額をした3,670万9,268円を支払え、という判決をしました(つまり、交通事故についてのAの過失3割を病院(Y)との関係で過失相殺することを認めませんでした)。
このようなケースも世の中には存在するのです。
- 都道府県から弁護士を探す
交通事故の裁判・調停のよく読まれているコラム
-
1位裁判・調停2018.04.04民事調停の流れ。裁判との違いやメリット・デメリットを徹底解説。交通事故の被害にあったとき、その解決手段としてまず思いつくのは示談です。そして示...
-
2位裁判・調停2017.10.18交通事故のレアケース!実際にあった珍しい判例まとめ昨今、日本では数多くの交通事故が発生しています。平成28年には、全国で49万9,...
-
3位裁判・調停2017.10.04交通事故裁判の判決に納得できない!上訴のすべてを徹底解説交通事故の被害者が、相手方又は相手方の加入する保険会社との間で損害賠償の交渉がう...
-
4位裁判・調停2018.08.21加害者が無罪?目撃者がいない死亡事故で遺族が泣き寝入りしない方法。交通事故が起きて、加害者が生存し、被害者が死亡し、さらに目撃者がいなかったとしま...
-
5位裁判・調停2017.08.07本人訴訟は難しい!交通事故の裁判を個人で起こすと損する理由交通事故の被害者が相手方の保険会社と交渉をしても、示談案が全然まとまらないことも...
新着の交通事故コラム
-
基礎知識2019.06.03交通事故問題にかかる弁護士費用の相場は?交通事故に遭うと、程なくして相手側との話し合いが始まります。話し合いは保険の加入...
-
基礎知識2019.05.28煽り運転は違法行為?定義や対処法を弁護士が解説昨今大きな問題となっている煽り運転。ニュースで見る機会も多いかもしれませんが、大...
-
基礎知識2019.05.07弁護士が解説する交通事故に強い弁護士の選び方・探し方交通事故の話し合いは、弁護士に依頼することがお勧めです。それは、精神・肉体的な労...
-
基礎知識2019.05.07危険運転致死傷罪とは?罰則や適用される場合とは飲酒時、薬物服用時、疾患がある場合など、運転が困難な状況での走行や、ルールを無視...
-
基礎知識2019.04.23交通事故を行政書士や司法書士ではなく弁護士に相談すべき理由交通事故をスムーズに解決するためには、法律の知識や適切な対応をおこなうことが重要...
交通事故問題で悩んでいる方は、まず弁護士に相談!
交通事故の損害賠償額は弁護士に相談すると増額の可能性も!
保険会社の損害賠償提示額では損をしている可能性があります。弁護士に相談して正当な金額を受け取りましょう!
交通事故被害者の悩みを弁護士が解決します!
交通事故に遭った方が抱える様々な悩みを弁護士に相談して多くの人がメリットを得ています!