加害者が許せない!交通事故の加害者に刑事罰を与える方法

交通事故の被害にあったとき、被害の程度に違いはあれど、被害者は怪我をすることが多いです。この場合、加害者はどのような対応をとるべきでしょうか。治療費や車の修理代などの被害弁償をすることはもちろんですが、被害者が交通事故によってしたいと思うことができなくなったり、大きな苦痛を伴ったりしていることを考えると、誠意ある対応をすべきでしょう。
しかし、残念ながら、なかには、誠意のある対応をとってくれない加害者も存在するのが事実です。加害者から適切な対応をしてもらえない被害者としては、もはや被害の経済的な回復だけでは足りず、国家による刑事罰を与えたいと考えられる方もいらっしゃるでしょう。そこで、本記事では、加害者に刑事罰を与える方法をご紹介いたします。
- 目次
交通事故で成立しうる犯罪一覧
まずは、交通事故によってどのような犯罪が成立しうるのかをご説明いたします。
なお、以下では「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」を「自動車運転死傷行為処罰法」、「道路交通法」を「道交法」といいます。
1.危険運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法2条)
次の行為をして、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上20年以下の懲役になります。
✔ アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
✔ その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
✔ その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
✔ 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
✔ 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
✔ 通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
2.アルコール等影響発覚免脱罪(自動車運転死傷行為処罰法4条)
アルコールや薬物の影響によって正常な運転が出来ず走行中に支障が生じるおそれがありながら自動車を運転した者で運転上注意すべき点を怠り人を死傷させた場合に、その運転時に服用していたアルコールや薬物の影響の発覚を回避する目的でさらにアルコールや薬物を摂取させる、その場から離れて身体に残ったアルコールや
薬物の濃度を意図的に現象させるなどの行為をした場合12年以下の懲役が課せられます。
少し表現が難しいので、分かりやすく説明します。
要するに、飲酒運転や覚せい剤を使用して運転した結果、誰かを死傷させたとしましょう。
この場合、自分の罪を少しでも軽くしたい運転手は、「アルコールなどが原因で死傷させたのではない」と判断してほしいはずです。
そのために、交通事故を起こした後に、コンビニなどに立ち寄ってさらに飲酒をすれば、「酒を飲んで自動車を運転していたこと」が発覚しにくくなります。これを禁止したのが本条の規制です。
3.過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法5条)
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役・禁錮又は100万円以下の罰金となります。
これは、危険運転致死傷罪のいずれにも当たらないけれども、よそ見運転をしていたとか、信号無視をしたとか、自動車を運転するにあたって必要となる注意をしなかった場合に適用されます。
4.負傷者の救護義務等必要措置履行違反(道交法117条2項)
自動車の運転手が、自分の運転によって被害者を死傷させた場合において、直ちに自動車を停止させて負傷者を救護し道路における危険を防止するなどの必要な措置をとらなければ、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります。
5.事故報告の義務違反(道交法第119条1項10号)
交通事故を起こしても警察を呼ばなかった場合、運転手は3か月以下の懲役又は5万円以下の罰金となります。
6.酒酔い運転・酒気帯び運転(道交法第117条の2など)
飲酒運転などの場合にはその罰則は複雑です。運転手には、アの通り罰則が科されますが、その他の者にも刑罰が科せられる可能性があります。
実際に飲酒運転をしていた行為
✔ 酒酔い運転 :5年以下の懲役又は100万円以下の罰金
✔ 酒気帯び運転:3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
飲酒運転の可能性のある者に車両を提供した行為
✔ 酒酔い運転 :5年以下の懲役又は100万円以下の罰金
✔ 酒気帯び運転:3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
飲酒運転をする可能性がある者に酒類提供した者
✔ 酒酔い運転 :3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
✔ 酒気帯び運転:2年以下の懲役又は30万円以下の罰金
運転者が飲酒運転をすることを知りながら同乗した者
✔ 酒酔い運転 :3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
✔ 酒気帯び運転:2年以下の懲役又は30万円以下の罰金
飲酒運転について詳しく理解するためには、このほかにも、行政罰(免停など)もございますし、飲酒と酒気帯びの違いなども理解しなければなりません。
この点については、以下の記事で詳しく説明しておりますので、そちらをご参照ください。
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基礎知識2017.09.06
飲酒運転とは、お酒を飲んで自動車を運転する行為をいいます。ご存じの通り、お酒を飲んで自動車を運転することは極めて…
7.無免許運転(道交法第117条4項2号)
無免許運転をした場合には、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金となります。
8.速度超過(道交法第118条1項1号)
速度超過(スピード違反)をした場合には、6か月以下の懲役又は10万円以下の罰金となります。
9.実際の処罰
以上が、交通事故に関連する主な犯罪行為です。
いずれも懲役刑も視野に入りうる、極めて重いものです。
しかし、実際の事案においては、検察官はその事案や身上事情などを具体的に考慮して、その犯人を起訴すべきかどうかを決定します。
また、起訴されたとしても、実際に判決をどうするかは裁判所の判断に委ねられます。
そのため、上記の各種犯罪行為をしたとしても、実際には罰金刑になったり、不起訴となることも充分にありうることなのです。
ただし、危険運転致死傷罪や、実際に人が死亡したりするケースでは、その犯行態様が重かったり、発生した結果が重大であるため、実際に懲役刑が下されることは、他のケースよりも多くなるでしょう。
加害者を処罰するためにとりうる手段
では被害者が実際に加害者を処罰するための手段には、どのようなものがあるでしょうか。代表的な手段として挙げられるのは告訴・告発・被害届の提出の3つです。
1.告訴・告発
告訴・告発とは、どちらも捜査機関(警察や検察)に対して犯罪を申し出て訴追を求める意思表示をすることです。
では違いはどこかというと被害者本人が行う場合には告訴といい、被害者と犯罪者以外の第三者がこれを行う場合には告発といいます。
告訴も告発も、犯人を知った日から6ヶ月以内に「検察官又は司法警察員に書面(告訴状や告発状というタイトルがつけられます)又は口頭で行う必要がある」とされています。
告訴・告発を受けた検察官又は司法警察員は、調書の作成に取り掛かります。
ですが告訴・告発が受理されても、必ず証拠が収集でき犯人を発見したり被害者を保全する手続が行われるわけではありません。
ですが検察官は起訴するか否かの判断をし、その結論を告訴人・告発人に通知する義務があるので告訴・告発が受理されたからには捜査をする方向で考慮されるでしょう。
2.被害届の提出
被害届は、犯罪による被害の事実についてのみ申告するものです。この中には、犯人の起訴を求める意思表示は含まれておらず、法的な位置づけはありません。現行犯でなくて、犯人を捕まえてほしい場合は被害届を提出します。
そのため警察にとっても、告訴や告発に比べて被害届は緩やかに扱われていると考えられます。
3.これらは必須事項か
では、以上の手続の流れを通らなければ警察は絶対に動いてくれないのかというと、そうではありません。
告訴・告発や、被害届の提出がなくとも、警察が動いてくれることはあります。
ただし、警察が起こった全ての犯罪を把握しているわけはなく、被害者が犯人をどの程度の熱量で処罰したいと考えているかを理解していない場合もあります。
そのため、「このような出来事があった」「加害者を必ず処罰してほしいと考えている」という希望をきちんと警察に伝える必要があります。
そのための手段のひとつとして、告訴や告発又は被害届の提出などがあるということです。
実際の事案には様々なケースがあると思います。具体的にどのような手続をとるべきかは警察に相談されるとよいでしょう。
刑事手続における被害者の関わり方
それでは、被害者は刑事手続にどのようにかかわっていくことになるのでしょうか。
前提として、刑事手続の大まかな流れをご説明いたしましょう。
警察は、犯罪行為を認識したら、まずは捜査をします。その捜査の中で、証拠を集めたり、人の供述を聞いたりします。
そのうえで、警察は検察に資料を送付します。検察は、必要があれば追加の捜査を警察に指示したり、自ら捜査をしたりします。
その結果、検察がその犯人を起訴するかどうか、起訴するとしてどのような刑罰が妥当かを考えます。
そして、検察が犯人を起訴したら、今度は裁判所で、有罪か無罪か、有罪であればどのような刑罰を科すのかが決定されるのです。
被害者は、この流れの中で、まず捜査に関与します。
警察や検察から呼び出しを受けるので、指定された日時に指定の場所に行き、犯罪についての話をします。これが複数回あることもあります。
また、実際に犯罪行為が行われた場所に行って、具体的に「こんなことが起こった」などと説明をすることもあります。
そして、検察が犯人を起訴すると、今度は裁判所にステージが移ります。裁判所でも、被害者は、他の一般の傍聴人に比べて少し特殊な取扱いがなされます。
例えば、裁判所の許可を得て、被害者参加人として意見を述べたりして刑事裁判に参加することができます。
また、その事件の記録を閲覧することもできます。さらに、氏名などを伏せたい場合にも、その旨を申し出ることができます。
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まとめ
以上、加害者に刑事罰を与える方法についてご紹介いたしました。
被害者としては、警察や検察、裁判所に不慣れであることが通常です。ましてや、交通事故の被害にあって、ただでさえ苦痛を受けています。
そのため、そのような場所に足を運ぶ必要が生じてくる可能性があるので、精神的にも肉体的にも大変かもしれません。
しかし、加害者に刑事罰を与えるというのは、加害者の人生にも大きな影響を与えるので、国も慎重に検討をしているのです。
本記事でご説明したことの他にも、さまざまな制度やルールがありますので、加害者の処罰をお考えの方は一度弁護士に相談されることをお勧めいたします。
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