交通事故の本人訴訟。被害者と加害者の対応の違いとは

裁判・調停
交通事故の本人訴訟。被害者と加害者の対応の違いとは

交通事故の加害者と被害者は、被害者の側に生じた被害額を弁償するために、示談をすることがあります。しかし、示談がまとまらない場合には、訴訟をすることになります。ただ、一般に出回っている本や、インターネット上の記事を見ても、「結局、私は何をすればいいの?」と思われる方も多いと思います。そこで、本記事では、個人が弁護士に頼まずに裁判を起こす場合に、加害者と被害者で行うべきことがどのようになるのかを解説いたします。

なお、解説を分かりやすくするため、本記事における加害者と被害者の過失割合は100:0であるものとします。

目次
  1. 裁判開始前にやるべきこと
    1. 被害者の訴状作成及び提出
    2. 加害者側が提起する債務不存在確認の訴えについて
  2. 裁判の1回目-出頭-
  3. 裁判係属中にすること
  4. 当事者尋問・証人尋問
  5. 判決
  6. 和解
  7. まとめ

裁判開始前にやるべきこと

裁判を始める前には、被害者は、


①訴状を書く

②訴状を出す

という作業をしなければなりません。

他方、加害者は、訴状に対応した「答弁書」という書面を作って出します(加害者が訴状を書く「債務不存在確認訴訟」という類型もあるのですが、これについては後述致します)。

被害者の訴状作成及び提出

訴状の作成・提出については、下記の記事を作成しておりますので、詳しくはそちらをご参照ください。

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本記事では、必要な範囲で同記事の引用をして、ご説明申し上げます。

訴状に記載する事項は、実に多岐にわたります。これらはすべて、法令で決まっているものなのです。

例えば、当事者の表示、送達場所、請求の趣旨、請求の原因、証拠方法などがありますが、専門用語も多く、分かりにくいです。


そこで、自分で訴状を作る際には、裁判所のホームページを参照しつつ、以下のように記載するとよいでしょう。

参考:「訴状の作成について」(外部リンク)

(訴状記載例)

 訴    状

平成99年0月0日

●●地方裁判所 御中

 

当事者の表示

〒000-0000

交通県交通市交通町0-0-0

原告 被害者 太郎

 

〒000-0000

交通県交通市交通町1-1-1

被告 加害者 太郎

 

損害賠償請求事件(交通)

訴訟物の価額 金 00万0000円

貼用印紙   金      0000円

予納郵便切手 金    5035円

 

 

第1 請求の趣旨

 1 被告は、原告に対し、金00万0000円及びこれに対する平成99年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え

 2 訴訟費用は被告の負担とする

との判決及び第1項について仮執行宣言を求める。

第2 請求の原因

 1 交通事故の発生

  平成99年1月1日午前0時00分頃、交通県交通市交通町事故交差点付近において、被告が運転していた普通貨物自動車(車両番号:●●、証明書番号●●)が、原告の運転する普通自動二輪車(車両番号:●●、証明書番号●●)の背後に追突する事故が発生した(甲1。以下、「本件事故」という)。

  被告は、●●すべきであったにもかかわらず、●●しなかった結果、本件事故を起こした。

 2 人的損害の発生

  本件事故により、原告には,頸椎捻挫の傷病が発生した(甲2)。これらの治療のために、以下の損害が発生した。

(1) 治療費 ●万円

(2) 医薬品費 ●円

(3) 文書料 ●円

(4) 通院交通費 ●円

(5) 通院慰謝料 ●円

(6) 小計●万円

 3 総括

  よって、原告は、被告に対し、自動車損害賠償保障法3条本文又は民法709条に基づき、金●万円及びこれに対する平成99年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。


もう少し知りたい方向けに、少しだけ突っ込んだ解説をします。

「請求の趣旨」とは、判決に対応する箇所で、要するに、「誰が誰に何を求めているのか」ということが分かる最小限の記載をします。

このサンプルのように、「AがBに金を払え」という書き方をしても、それが売買代金なのか、貸金なのか、委託代金なのか、損害賠償なのかが全く分かりません。


そこで、「請求の原因」という記載をして特定します。ここで、法律的にどういった理由でお金を請求しているのかを記載するのです。

交通事故でいえば、請求の原因というのは、損害賠償請求権を発生させるのに必要な事情をいいます。具体的には、

①故意又は過失(前方不注視など、すべきであったことをしなかったこと)

②権利又は法律上保護された利益の侵害(怪我をしたこと)

③損害の発生及び額(治療費、慰謝料など、交通事故が原因で被った損害額)

④②と③の因果関係

を記載します。

日常的な感覚からすると、「これを書かなくても何があったか分かるじゃないか!」というものでも、欠けてはいけません。


どれか1つでも欠けると、裁判所から指摘が入りますので、注意して作成してください。

また、証拠もきちんと用意してください。

訴状の記載は、大きく分けて「主張」と「証拠」に分けられます。「主張」というのは、発言と同じだと考えてください。


ただ、主張だけを記載しても、裁判所から見てそれが真実かどうかが分かりません。そのため、この主張が真実であることを裏付ける「証拠」が必要になります。

証拠は、原則としてコピーではなく、原本を用意してください。事前に裁判所に提出するものはコピーでもよいのですが、実際に裁判に行ったときに原本を提出してください。


訴状などの書面で記載するときは、「甲●」などと記載して、番号をつけるのが一般的です。

訴状を作ったら、今度は裁判所に提出します。ここで問題になるのは、どこの裁判所に提出するのか、ということです。訴状を提出する裁判所を「管轄裁判所」といいます。

ここで、管轄について少しだけ説明します。

交通事故の裁判における管轄には、大きく分けて、

①簡易裁判所か地方裁判所か

②①が決まったとして、どこの裁判所か

という問題があります。

まず、①簡易裁判所か地方裁判所か、という問題は、請求する額によって変わります。請求額が140万円を超える場合には、地方裁判所に管轄があります。


他方、請求額が140万円以下のときは、簡易裁判所に管轄があります。

簡易裁判所か地方裁判所かが決定すると、つぎにどこの裁判所に訴状を提出すればいいのか分かりません。そこで、②どこの裁判所に管轄があるのかが問題となります。

この答えは、次の通り、3つあります。

      •  被告の住所地を管轄する裁判所
      •  原告の住所地を管轄する裁判所
      •  交通事故現場を管轄する裁判所

です。

このように、管轄裁判所は具体的なケースごとに変わります。そのため、自分で裁判をしようという方はご自身で管轄裁判所を判断される必要があります

なお、訴状を出した後に、被害者が「記載を間違えた!」という場合や、裁判所から「ここを訂正してください」と言われた場合には、訴状を訂正する必要があります。


実は、この手続にも書面が必要です(裁判所の手続は基本的に全て書面で行われるのです)。この書面を「訴状訂正申立書」といいます。

訴状訂正申立書は次のようなものです。

(訴状訂正申立書記載例)

平成99年(ワ)第00000号 損害賠償請求事件(交通)

原告 被害者 太郎

被告 加害者 太郎

訴状訂正申立書

平成99年2月1日

●●地方裁判所 第0民事部 御中

原告 被害者 太郎

頭書の事件の訴状について、以下の通り訂正致します。

 

1 「・・・」とあるのを、・・・と訂正する。

2 ・・・


もしも加害者が、被害者の請求を争う場合には、答弁書というものを書いて出します。


答弁書には2種類あり、請求の趣旨のみにつき認めるか認めないかを書いたものを形式答弁、請求の原因についても認めるか認めないかを書いたものを実質答弁と言ったりします。

形式答弁の場合には、以下のサンプルの「請求の原因に対する答弁」の欄に、「追って主張する」と書くだけです。

答弁書は、次のように記載します(裁判所のホームページにも独自のサンプルがありますので、ご参照ください)。

参考:「答弁書」(外部リンク)

(答弁書記載例)

平成99年(ワ)第00000号 損害賠償請求事件(交通)

原告 被害者 太郎

被告 加害者 太郎

答弁書

平成99年2月1日

●●地方裁判所 第0民事部 御中

 

〒000-0000

交通県交通市交通町1-1-1

被告   加害者 太郎

電話   00-0000-0000

 

第1 請求の趣旨に対する答弁

 1 原告の請求を棄却する

 2 訴訟費用は原告の負担とする

との判決を求める。

 

第2 請求の原因に対する答弁

 1 第1項について

  ・・・は認め、その余は否認する。

 2 第2項について

  不知。

 3 ・・・

 

加害者側が提起する債務不存在確認の訴えについて

ここで、加害者側から提起する債務不存在確認の訴えにも言及しておきます。

訴訟の一般的な流れとしては、被害者が、加害者に対し損害賠償を請求するのですが、実は、これと逆に、加害者から訴えを起こすこともできます。

具体的には、加害者が、被害者を相手取って「債務が存在しない(債務が●万円以上存在しない)ことの確認を求める」と裁判所に債務がないことを確認してもらうのです。


これを債務不存在確認の訴えといいます。

ただし、この訴えを提起するためには、専門的な要素が多々加わりますので、弁護士に相談された方がよいでしょう

裁判の1回目-出頭-

裁判を起こした後は、まず、裁判所が指定した期日(期日は全て平日に指定されます)に裁判所に出向きます。これを「出頭」といいます。


出頭の際、被害者は証拠の原本を持って行き、裁判所に見せる必要があります。

これに対し、加害者は、答弁書を出していれば、1回目の期日のみ欠席することが可能です。

その後、第2回目の期日が指定されます。この際、原告と被告の予定をすり合わせながら決定します。

裁判係属中にすること

それからは、第2回、第3回と期日を経ていきます。そこで、お互いの主張に対し、逐一反論をすることになります。

具体的には、第1回目にやむを得ない理由から形式答弁だけを出していた場合には、第2回に被告の実質答弁があります。それから第3回目には原告の主張、第4回目には被告の主張・・・と進み、期日ごとに交互に主張することとなります。

当事者尋問・証人尋問

当事者による証拠(物証)を基にした主張がおおむね終わったと裁判所が判断した場合には、当事者尋問証人尋問に移ります。


これらは、人が、自分の経験により認識したことを裁判の場で供述することをいいます。

もっとも、証言は契約書などの物とは違い、ねつ造することができます。


そのため、一般論としては、証言は物に比べて信用性は低く、あくまで物との整合性を基準に判断される傾向があります。

判決

尋問が終わったら、いよいよ判決です。判決は、法廷で言い渡されることが通例です。この言い渡しの期日には、実際に裁判所に行く必要はありません。

和解

以上が大まかな裁判の流れですが、裁判の途中で、裁判官から和解が提案されることもあります。もちろん、当事者がこの和解案に乗るかどうかは自由です。

和解では、原告にとっては自分の請求が全額認められることは少ないですが、これ以上訴訟をしなくてもよく、早期に紛争を解決できるメリットがあります。

他方、被告にとっても、いくらかお金を払う必要は生じる可能性が高いですが、早期に紛争を解決できるメリットがあります。このように、和解には、双方にメリットがあるのです。

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まとめ

以上が、裁判での加害者と被害者の違いでした。


ただ、個々の事情によってすべきことが異なってくることから本記事に記載できなかったことも多々ございますので、裁判をする場合には、やはり弁護士に相談すべきでしょう。

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