交通事故の裁判を有利に進める方法【完全保存版】

交通事故の示談がまとまらなかった場合、訴訟をすることもあります。では、実際に自分で訴訟をする際にどういうことがポイントになるのでしょうか。本記事では、訴訟ではどのような構造で審理されることになるのかということも踏まえて、どのように進めるのがよいのか、そのポイントを解説します。
- 目次
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民事訴訟で行うこと
そもそも、訴訟ではどのようなことを行うのでしょうか。
誤解を恐れずに簡単にいうと、証拠を出して「自分の主張が正しい」ということを証明するのです。以下、なるべく簡単に説明します。
1-1.条文を決める
何かを被告に請求するにあたって、まずしなければならないことは「条文の選択」です。
どの法律の、何条に基づいて、何を請求するのかを決めなければなりません。交通事故では民法709条がよく使われますので、これを例に説明します。
民法第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
これだけ見ても、「それはそうだろう」と思うだけかもしれません。しかし、実は、この条文の読み方がポイントなのです。
法律の世界では、この条文を「要件」と「効果」に分けて読みます。
「効果」とは、法律上の権利を発生させたり、消滅させたりする結果のことをいい、民法709条でいうと「損害を賠償する責任を負う」というところです。
「要件」とは、効果を発生させるために必要な条件をいいます。
民法709条でいうと、次の5つとなります。
①故意又は過失によって
②他人の権利又は法律上保護される利益を
③侵害した者は、
④これによって
⑤損害(が生じたこと)
交通事故によって生じた損害額を請求する場合も、この5つの要件を満たす必要があるのです。典型的な交通事故の例でいえば、
①赤信号で停止しなければならなかったにもかかわらず、これをしなかったことによって
②被害者の身体の利益を
③侵害し
④これによって
⑤治療費などの損害が生じた
となります。
1-2.事実の主張や立証
次に、この要件に該当する事実を主張・立証します。
「主張」とは、一定の事実の存否に関する陳述をいいます。
「立証」とは、その主張した事実の存否を裏付ける証拠を提出することをいいます。この立証は、要件事実ごとに行います。
例えば、上の例で行くと、
1.赤信号で停止しなければならなかったにもかかわらず、これをしなかったことによって
→実況見分調書、目撃証言など
2.被害者の身体の利益を
→診断書、診療報酬明細など
3.侵害し
→事故態様の分かる資料(実況見分調書や、事故当時の写真など)
4.これによって
→因果関係の分かる資料など(これはないことも多い)
5.治療費などの損害が生じた
→診療報酬明細書など
などの証拠を提出して行います。(証拠については、後で改めて説明します)
以上の証拠は、あくまで要件事実そのものを証明するための資料です。
これ以外にも、これらを推認することができる事実(間接事実)を証明することもあります。間接事実とは具体的にどのようなものでしょうか。
例えば、「事故直前の加害者側の道路の信号が赤色だったこと」を証明したい場合、この事実そのものを証明することがなかなか困難なケースもあります。
しかし、「事故直前の加害者側の道路にあった車は、加害者の車を除いて皆停止していたこと」を証明できた場合にはどうでしょうか。
この場合には、裁判官は「加害者の車以外はみんな停止していたのは信号が赤だったからだよな」と思うはずです。
このように、証明したい事実(要件事実)を推認させる事実を間接事実と呼びます。
実務上は、この間接事実を証明することも非常によく行われます。
余談ですが、刑事もののドラマなどでも「情況証拠」という言葉をよく耳にされることも多いと思います。
刑事事件で「情況証拠」と呼ばれるものは、この間接事実を指すことが多くあります。周辺的な事情から犯人が誰かを推測するのですね。
では、このような主張立証ができれば、勝訴するのでしょうか。
実は必ずしもそうではないのです。被告もこの主張に対していくつか反論する可能性があります。例えば、次のような反論があります。
事実関係が異なる
原告が主張する事実は、真実ではない。こちらの信号は青だった。
責任能力がないこと
運転手は、運転当時、良いことと悪いことの判別ができない状態になっており、責任能力がなかった。(責任能力については下記の記事をご参照ください)
- 併せて読むと役立つ記事
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慰謝料・損害賠償2017.09.13
「子の責任は、親の責任である」 世間一般にはこのように言われることもあります。実際、子が何か悪さをしでかしたときは…
因果関係がないこと
原告の主張する損害は、今回の事故よりも前に生じた事故による怪我の治療費なので、今回の事故とは関係がない
過失相殺
原告にも落ち度はあったので、過失割合が双方に存在する。そのため、全額を認めるべきではない。
などなど、挙げるとキリがありません。このように、被告も、被告の思うところを反論することとなります。
もちろん、この被告の反論に対して再反論をすることもあります。これについても主張・立証をすることとなります。
1-3.どの程度証明しなければならないのか
では、証明とはどの程度の強さが必要なのでしょうか。
最高裁判所の判例では、「通常人が疑いを差し挟まない程度の高度の蓋然性(がいぜんせい)」を必要としています。
少々分かりにくいので、かみ砕いて説明しますと「この証拠があったら、普通はこういう事実があっただろう」と普通の人なら考える程度の証明という意味です。
例えば、交通事故証明書があると、その内容を見た人は「あ、この人とこの人が、この場所で、交通事故を起こしたんだな」ということが分かるでしょう。
確かに、抽象的な可能性としては「内容が虚偽である」ということもあり得ます。
例えば、誰かが偽造したものであるとか、警察官がこっそり裏で書き換えたものであるとか、そういったことです。
しかし、交通事故証明書を偽造すると犯罪行為になりますし、そのようなリスクを冒してまで交通事故証明書を偽造する人なんてそうそういないでしょう。
したがって、通常であれば交通事故証明書の内容通りの交通事故が発生したことを証明できるのです。
1-4.証明できない場合、どちらが真実か分からない場合はどうするか
原告が証拠を出して立証を尽くしたが、被告も証拠を出して反論をし尽くした結果、原告の言い分にも一理あるけど、被告の言い分にも一理あることもあります。
このような場合、裁判所は頭を抱えるわけです。しかし、裁判所は「真実が分かりませんので判決しません」ということはできないのです。
では、この場合どのように処理するのでしょうか。
結論から申しますと、「証明責任」を負う人に不利な判断に働きます。
「証明責任」とは、ある要件事実が真偽不明である場合に、その事実を要件とする自己に有利な法律効果が認められない一方当事者の不利益・危険をいいます。
難しいですね。分かりやすく説明しましょう。
実は、先ほど説明した要件事実は、どちらが証明しなければならないのかということがあらかじめ法律で決まっているのです。
例えば、交通事故の損害賠償請求においては、
1.故意又は過失によって
2.他人の権利又は法律上保護される利益を
3.侵害した者は、
4.これによって
5.損害(が生じたこと)
の5つに該当する事実を、原告(被害者)が証明しなければならないのです。
ただし、交通事故の人的損害を請求する場合においては、自動車損害賠償保障法3条によって「1.故意又は過失」の証明責任が被告(加害者)に転換されますが、この話はとても難しいので一度弁護士に相談した方が良いでしょう。
そして、もしも原告がこれらの事実を1つでも証明できなかった場合には、その事実は存在しなかったものとして扱われてしまいます。残念ながら、裁判のシステムはこのようになっているのです。
- 併せて読むと役立つ記事
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民事訴訟の際に準備する証拠
以上が訴訟で行う大まかな審理の方法です。では、実際にどのような証拠をそろえれば被害者が勝訴しやすくなるのでしょうか。
実は「これがあれば必ず勝てる!」という伝家の宝刀のようなものは、残念ながら存在しないのです。地味に1つ1つ証拠を集めていくしかないのです。
一例として、一般的に準備をしなければならないものを紹介します。
2-1.現場の状況
✔ 事故車の保存
✔ 事故車の写真
✔ 路面のタイヤ痕、落下物の写真
✔ ガードレールなどの損傷具合の写真
✔ 事故のときに身に着けていた物の保存
✔ 現場周辺の監視カメラの映像
これらの証拠は、事実関係を争われた場合にしばしば必要になります。
2-2.交通事故証明書
これによって事故があったことを立証できます。治療費や通院費などの人の身体に関する損害を請求されるのであれば、人身事故の交通事故証明書を取得する必要があります。
2-3.診断書・MRI画像・X線写真などの医療記録
事故直後に撮影されたものが望ましいです。後々になって傷病が発覚してくるような特殊な場合を除けば、事故直後の怪我であれば因果関係が認められやすくなります。
2-4.目撃証言
これも、事実関係を争われたような場合に有用になります。
2-5.各種領収書
通院に必要な交通費であるとか、治療費そのものであるとか、医薬品代金とか、事故によって生じた怪我の治療に必要となった費用を証明できます。
保険会社への根回しはない
もちろん、和解のために期日外でやりとりをすることはありますが、いわゆる「根回し」などのようなものはありません。
民事訴訟において弁護士ができること
以上で見たように、裁判所での審理は本当に複雑であることがわかったと思います。
要件事実、証明責任、証明の概念などを簡単に紹介しましたが、これらをきちんと理解をしようとすると、民法や民事訴訟法に関する書籍を何冊も読まなければなりません。
弁護士はこのような知識を充分に持っているため、実務に沿った訴訟活動をすることができます。
まとめ
交通事故の裁判を個人で行おうとすると大変です。
特に、裁判では一度言ったことを撤回するのができない場合もありますので、慎重に行動しなければなりません。
このようなリスクを回避するためにも、プロである弁護士に相談された方が良いと思います。
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