加害者が無罪?目撃者がいない死亡事故で遺族が泣き寝入りしない方法。

交通事故が起きて、加害者が生存し、被害者が死亡し、さらに目撃者がいなかったとします。このとき加害者が嘘をついて「自分は悪くない」と証言したらどうなるでしょうか。
その場合、被害者遺族としては想像したくないことですが、加害者は無罪になることもあります。もしくは、罰金を支払って終わり、ということも起きています。
目撃者なしの死亡交通事故が「加害者天国」といわれるゆえんです。ただ、賠償責任では被害者遺族が有利になる可能性があります。
- 目次
目撃者のいない死亡交通事故が加害者有利になってしまう理由
目撃者のいない死亡交通事故が加害者有利に働いてしまうのは「やむを得ない」といえる一面もあります。
例えば、青信号の横断歩道を渡っていた歩行者を自動車がひいて死亡させた場合を想定します。このとき、運転者が規制速度を超過して脇見運転をしていたとします。
これが事実であっても、目撃者がいなくて監視カメラもなければ、青信号だったことも、被害者が横断歩道を歩いていたことも、運転者が脇見運転していたことも証明できません。
運転者が「死亡した歩行者は赤信号を無視して突然車道に飛び出してきて回避できなかった。しかもこちらは制限時速で走行していて、かつ運転に集中していた」と嘘の証言をしても、それが嘘であることを証明することは困難なのです。
では「証拠はないが運転者(加害者)が嘘をついている」と判断して、運転者に刑事罰を与えてしまったらどうなるでしょうか。確かに、運転者の過失が事実であれば正義になります。
ですが、制限時速以下で運転に集中して走行していた運転者が、横断歩道の赤信号を無視して突然車道に飛び出してきた歩行者をひいて死亡させてしまったというのが真実だとします。
この場合、運転者に刑事罰を与えることは妥当ではありません。もし死亡した被害者に自殺の意図があったら、なおさら運転者を罰することはできないでしょう。
ですので証拠がない状態では加害者を罰することができないのです。
このため、「死人に口なし」状態になってしまう目撃者なしの死亡交通事故は加害者天国と言われることすらあるのです。
目撃者がいて運転者の過失が認められれば厳罰がくだる
ここでは目撃者がいないケースを考えていますが、仮に複数の目撃者がいて運転者の過失を証明できれば、運転者には厳罰がくだります。
不法運転で交通事故を起こし、歩行者などを死亡させてしまった場合、自動車運転死傷行為処罰法(過失致死罪)などで罰せられます。
7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金が科されます。
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死亡被害者に過失がなかったことを証明できるのか
話を目撃者がいない死亡交通事故に戻します。死亡被害者の遺族としては、交通事故を引き起こした運転者(加害者)に刑事罰を与えたい気持ちになるでしょう。
また運転者の言動が疑わしい場合、警察や検察も有罪に持ち込もうと考えるはずです。
しかし加害者を有罪にするには、死亡被害者に過失がなかったことと、加害者に過失があることを証明する必要があります。
まず、死亡被害者に過失がなかったことの証明ですが、目撃者も監視カメラ映像もない状況では、捜査は加害者の証言を元に始めることになります。
しかし、加害者の証言とタイヤ痕などの状況証拠の間に矛盾があったとしても、「加害者の証言が矛盾している」ことと「被害者に過失がない」ことは必ずしもイコールにはなりません。
目撃者がいないと被害者に過失がないことを証明することは相当難しいという結論になります。
加害者に過失があることを証明できるのか
では次に、加害者(運転者)に過失があることの証明について考えてみましょう。結論を先にいうと、こちらも相当難しいと言わざるを得ません。
なぜなら、仮に加害者が凶暴な性格でスピード違反を繰り返しているような人でも、推定無罪が働くからです。
推定無罪とは刑事手続きのルールで、有罪の証拠がなければ「無罪であると推定しよう」という考え方です。推定無罪の考え方は、捜査する警察や検察も持たなければなりません。
よって、加害者の証言に基づいた捜査もしなければならないのです。
加害者が「自分は安全運転をしていた」「死亡した歩行者が突然飛び出してきて、十分な注意を払っていてもよけきれる状況ではなかった」「自分に過失はない」などと証言したとします。
そして警察が行った実況見分の内容とその証言が矛盾しなければ、その証言は証拠として扱われます。すなわち、加害者に有利な証言になってしまうのです。
目撃者なしの死亡交通事故は略式起訴になる可能性が高い
目撃者なしの死亡交通事故では、加害者が無罪になることもあります。そのケースは次の章で紹介します。
しかし目撃者がおらず過失運転致死傷罪に該当する死亡事故では、ほとんどの場合加害者は略式起訴されます。略式起訴とは、簡略された起訴という意味です。
簡略化されていない起訴、つまり通常の起訴では、被告人は公開の裁判を受けることになります。しかし略式起訴ではそういった手続きが大幅に省かれます。
通常の起訴も略式起訴も検察が行います。つまり略式起訴は、検察が、罪を問うが裁判を開くまでではないと考えたときに行われるわけです。
もしくは検察が、裁判に持ち込んでも有罪にできないだろうと考えたのです。
目撃者がいなくても死亡交通事故を起こせば加害者はかなり高い確率で逮捕されます。しかし、略式起訴が決まると被告人の身柄は解放されます。
略式起訴の場合、事件を審議するのは地方裁判所ではなく簡易裁判所です。簡易裁判は公開せず略式命令をくだすだけです。
略式命令では100万円以下の罰金または科料しか科すことはできません。懲役を科すことはできないのです。
略式命令でも被告人に前科はつきますが、死亡被害者の遺族としては「お金を払っただけで無罪放免になった」といった気持ちになるでしょう。
死亡交通事故を起こして無罪になっている事例
実際に死亡交通事故を起こしても、加害者が無罪になるケースがあります。
栃木県で2016年に、町道で立ち止まっていた男性を20代の男性がはねて死亡させる事故が起きました。
運転者の20代男性は自動車運転処罰法違反(過失致死)の容疑で警察に逮捕され、検察は起訴して禁錮1年を求刑しました。これは通常の起訴です。
ところが地方裁判所は運転者に無罪判決を言い渡しました。警察は実況見分で「運転者は死亡被害者との衝突を回避できたはず。前方注意義務違反があった」と判断し検察もそれを支持しました。
しかし裁判官は、「現場が上り坂が終わった直後の下り坂だった」ことを重視して「通常の注意を払っていても衝突は回避できなかった」と判定したのです。
被害者遺族が泣き寝入りしないためには
自動車を運転しているときに交通事故にあって死亡してしまい、自分に過失がないことを証明してくれる目撃者がいなかったら、遺族は相当つらい目に遭うでしょう。
そのようなことにならないために、自動車にドライブレコーダーをつけておくようにしましょう。実際に、用心深く前方と後方の2カ所にドライブレコーダーを装着している方もいらっしゃいます。
また死亡被害者の遺族は泣き寝入りする必要はありません。警察に対し「死亡被害者は常に慎重な運転をしていて、過失を伴う事故を起こすわけがない」と訴えることが重要です。
その際、やはり弁護士を雇っておいたほうがいいでしょう。弁護士は警察や検察の動きを把握できるので解決の糸口をみつけてくれるかもしれません。
損害賠償責任では被害者側に有利になることもある
さて、ここまで刑事手続きを見てきましたが、損害賠償責任を問う民事手続きでは異なる考え方をします。
損害賠償責任では、交通事故の死亡被害者の遺族が加害者の不法行為を立証するのは「不公平である」と考えています。
そこで損害賠償責任では、「加害者に過失がないことは加害者が立証しなければならない」ことになっています。
加害者自身が「注意して運転していたこと」や「死亡被害者に過失があったこと」などを証明しなければ、損害賠償責任は免れません。
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まとめ
目撃者なしの死亡交通事故の加害者は、刑事罰は受けないが民事罰を受けることで決着するケースが多いようです。これは自動車社会を続けるうえでやむを得ない「妥協策」といえるかもしれません。
運転免許証さえ取得すれば、誰でも2トン近い鉄の塊を何十キロものスピードで走らせることが許されているので、死亡交通事故の加害者すべてに刑事罰を与えることが難しいのです。
自動車を運転する人は、「いつ目撃者のいない死亡交通事故に遭うかわからない」と用心し、あらかじめ自動車にドライブレコーダーを付けておきましょう。これは残された家族の助けになります。
また万が一ご家族が死亡事故にあった場合は、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。
お金で遺族の気持ちは癒えませんが、損害賠償を求めることで加害者に罪を償わせることはできます。
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